妖精さんは世界を救いたい。

四月朔日 祭

第1話 その頼みは請けられないかな?

今日、彼氏に振られた。理由がちょっと酷かった。何なんだろう・・・顔が嫌いって、そんなの付き合う前から分かってたことじゃん。変わると思ってたって、無理ですよね?

くよくよ悩んでも仕方ないし、そう言えば私も彼氏の稼ぎが少ないのがちょっと気に入らなかったから。帰り道にあるコンビニで缶チューハイとチーズ入りかまぼことから揚げを買ってきたので、ささやかな「失恋パーティ」を一人で開催してました。

いい感じに酔ってきたのはサ〇エさんを観終わった頃。相変わらずあの禿げは偉そうだななんて思ってました。


「おめでとうございます!」

いきなり目の前に現れた「いかにも」な妖精っぽい子が私に告げた。

いや、そう言うのいいから。

「クレカの番号もSNSのパスワードも教えないけど?」

「違いますよぉ。貴女は神に選ばれて・・・」

「当選詐欺の常套手段ね、ソレ」

「違いますぅ。神様から貴女に特別な能力を授けるって話です」

「ふーん。で、死んだら魂を寄越せってこと?」

「見返りは求めません、コレは神の愛ですから」

「ところでさぁ?」

「はい、何でしょう?」

「あなた、土足で部屋に入ってきてるよ」

「あ、コレ脱げないんです」

「んじゃ、浮いたままお話しようね」

「ビックリしてませんね」

「んー、まぁ飲んでるし幻覚でもいいかなぁって」

「現実です。リアルに貴女は今から超能力を持ったスーパーウーマンになるのです」

「へー。超能力って凄い?」

「凄いですよぉ。普通の人には無い能力ですから」

「その能力、お金になりゅ?」

「不純な動機で能力を使うとおちんちんが腫れますよ?」

「私、女ですけどー?」

「きっと誰かのおちんちんが腫れます」

「ふーん、酷い話ねぇ・・・(溜息)」

「では貴女に授ける3つの能力をお伝えします」

「えっ!3つもっ!」

「はい、特別サービスですから」

「どんな能力かなぁ、かっこいい能力だよね?会社をテロリストが襲撃した時に私が颯爽とテロリストを倒す、みたいな?」

「そう言う妄想は中学校卒業と共に葬る黒い歴史です」

「じゃぁどんな能力?」

「1つ目。貴女は5秒先の未来を見ることが出来ます」

「5秒?たったの5秒?」

「まぁ、まぁいいじゃないですか。ちなみに精神を集中しないと見えない親切仕様です」

「どうして?」

「いつでも5秒先が見えてたら生活に支障が出るでしょう?」

「ふ~ん。どうすればいいの?」

「簡単です。例えばあの冷蔵庫の上にある花瓶を見つめてください」

「あ、はい」(ジーーーッ)

「何が見えます?」

「あ、落ちた・・・」

「まだ落ちてませんよ?」

「あ、ホントだ」

(ガチャンっ)

「あ、落ちた。割れたわっ!」

「ちなみに今私が超能力で花瓶を落としました」

「あれさ、結構高い花瓶だったんだぁ・・・」

「形あるものはいつか壊れます」

「あんたが壊したんじゃんっ!」

「でも貴女は私が花瓶を落とすとは知らずに予知出来ましたよね?」

「まぁ。それはそうだけど・・・ねぇ?意識を集中しないと予知出来ないのよね?」

「そうです」

「じゃぁさ、私が車に轢かれそうなんてことも、ずっと通る車に意識を向けてないと予知出来ないってことですよね?」

「そうなりますね」

「うわ・・・微妙な能力だ・・・」

「2つ目の能力は貴女の左手に宿しました」

「邪気眼っ?ソレって邪気眼的なアレ?」

「左手から何かが出てくるイメージをして下さい」

「こう?」(んーーーーっ!と力む)

「ほら、出てきましたよ」

「こ、これは・・・カ〇リーメイトっ?」

「商品名を出さないように。そうです、カロリーバーですね」

「また微妙な能力を・・・まぁ給料日前には助かるかな」

「1日1本限定です」

「この能力、要らないw」

「いえ、もう授けたので返品は受け付けません。慣れれば無意識に1日1本のカロリーバーを出せますよ」

「無意識に出てくると困るわ」

「では3つ目の能力です」

「もう期待しない・・・」

「人を見つめるだけでその人の血液型が分かります」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「血液型占いの時に便利でしょ?」

「私、一応は理系の大学を出ておりまして」

「はい」

「血液型占いは信じてないの」

「でも何かの役に立つとは思いませんか?」

「献血ルームにでも転職すれば役立ちそうね」

「貴女、職業は?」

「普通のOL」

「そうですか、ではここにサインをください。印鑑でもいいですがシャチハタは駄目ですよ」

「死んだばっちゃが迂闊にサインすると怖いお兄さんが来るってゆってた」

「大丈夫ですよぉ、神様相手ですよ?能力の受け取りをしましたって言う受領証ですから」

「三文判でいい?」

「朱肉を使ってくださいね」

「はいはい、細かいわね」

「では正式に3つの能力の授与が終わりましたので、貴女はその能力で世界を救ってください」

「ちょ、ちょっと待ってっ!そんな話は聞いて無いわっ!」

「はい、言ってませんでしたから」

「新手の詐欺ですか、あんた心が痛まないの?こんな貧乏OLを騙すなんて」

「騙してませんよぉ。能力を授けることに対しては何の見返りも求めてませんし、世界を救うのは貴女の意志次第です・・・が」

「が?」

「世界が滅べば貴女も死にますよ?」

「うっわー、コレだから神様とか嫌いなんだぁっ!」

「そんな貴女でも神様は見捨てませんよ(にっこり)」


妖精は受領証を折り畳んでポケットに仕舞うと消えた。いや、あの服ってポケットあるんだなぁって・・・・

翌朝、私は自分の能力を試すために散歩に出た。二日酔いだったけど。すれ違う人を見詰めると確かに顔にA型とかO型とか書いてある。でも何の役に立つんだろう?そう言えば5秒後を予知できるって能力もあるんだっけ?

私は目の前にある横断歩道の信号を見詰めた。青になった♪って当たり前じゃんっ!

能力は確かにあるけれど役立たずと言うか微妙過ぎる・・・そう思いながら公園に足が向いた。ベンチで缶コーヒーでも飲もうかしら?


公園にはどう見ても育児放棄されてそうな子がいた。いわゆる「放置子」ってやつかなぁ・・・?あんなに可愛い子を放置するなんて鬼畜だよなぁ・・・取り敢えず通報しとくか。

そう思いながらスマホを取り出して放置子?ちゃんに近づいた。あ、未来が見える。この子はお腹を空かせているから、私が左手から出したカロ〇ーメイトを食べさせてあげるんだ。

「ほら、コレをお食べ」


少しだけあの「アンパンのヒーロー」の気持ちが分かった。


さて、どうしようか?世界が滅ぶっていつのことだろう?私に何が出来るだろう、この異世界で。

いや、私はこの世界で産まれた普通のOLだけど。あまりに微妙なこの能力を使って私が世界を救うの?


「あ、すいません」

また妖精が現れた。

「ちょうど良かったわ、聞きたいことがあるの」

「私も言い忘れたことがありまして」

「先に私の質問、いいかな?」

「どうぞ」

「世界が滅ぶのはいつ?」

「企業秘密です」

「いや、あんたんとこは宗教法人で” 企業 ”じゃないだろ」

「遅れてますねぇ・・・コレ私の名刺です」

「名刺なんて持ってるんだ、ナニナニ?株式会社GOD東京支部〇〇市出張所、救世支援隊上級構成員ピクシー?」

「人間社会に喩えれば支店の営業部長です」

「株式会社なんだ」

「非公開株ですけどね」

「株主総会とか荒れそうだもんね・・・(しみじみ)」

「と言うわけで詳しくは教えられませんが、貴女の寿命が尽きる前だとはおつたえします」

「あらやだ、死んじゃうのね私」

「だから死なないように世界を救ってくださいってことです」

「この微妙な能力を使ってデスカ?」

「仕方ないじゃないですか、貴女が当たったのは5等賞だし」

「ちょっと待ってっ!取り替えてっ!1等とか前後賞と取り替えてっ!」

「受領証、受け取ってますし」

「腹黒いな・・・おまえら」

「まだマシですよ五等なら。7等とか8等あたりだと割り箸が毎回綺麗に割れるとか、タンスの角に足の小指をぶつけない能力とかありますから」

「割り箸で世界を救うんですね分かります」

「救えるんですか?割り箸で」

「綿棒よりは可能性があるような・・・」

「では私が言い忘れたことですが、もうお分かりですね?」

「はい?」

「神様ガチャの当選者、つまり貴女の仲間が沢山います」

「心強いなー」(棒)

「みんなで力を合わせて頑張ってください」

「どこに行けば会えるのかな、その仲間と」

「スタンド使い同士は互いに引き合う・・・」

「漫画のセリフをパクらないでくださいね」

「では私は次の当選者のところに行きます」

「近いの?私も連れてってよっ!すぐに仲間にしたいから」

「ダメです。あくまでも自力とその能力で頑張るのです」


夕暮れ、私はこの先どうすればいいか考えていた。公園のベンチは固かったけど、私の心も沈思の底で固まっていた・・・

仲間がいるってことは・・・この能力が5等だとしたら、もっと上位の人はきっと素晴らしい能力者に決まってるわっ!

あの妖精、ちょっと信じられないけど。

世界を救うのに必要なのは?


金か。


そうよ、そうだわ。お金が無いと秘密のアジトも武器もガンダムも作れないわっ!私はこの能力でお金を稼ごう、いっぱい稼ごうっ!

あ・・・競馬は駄目だわ・・・5秒前に馬券を買えるわけが無い。公営ギャンブルは全部ダメかぁ・・・

映画で観た博打も駄目だなきっと。

5秒前に丁から半に変えますって言ったら怖いお兄さんが私を屋根裏部屋に連れて行って、エロ同人誌みたいなことを私にするに決まってるっ!


1時間後、私は麻雀荘にいた。これならっ!聴牌したら神経を集中して「切られる牌」で待つだけで勝てるわっ!


OLの谷口理絵さんは今日も退社後の麻雀荘で勝ち続けている・・・

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