最強チート勇者を無力化するオススメの方法
ちびまるフォイ
ちから:9999 かしこさ:1
神様の手違い(笑)で死んだ主人公はすごい力を手に入れた。
なんの苦労もせずに、世界を支配している魔王の前へやってきた。
「さぁ、死んでもらうぞ、魔王!!」
「なんて力だ……。しかし、我輩はここで終わるつもりはない……!」
魔王は油断した主人公に魔法を放った。
「……なんだ? なんのダメージもないじゃないか。
せめて最後の一撃くらいは受けてやろうと思ったのに、張り合いがないな」
「ククク、その魔法は相手を殺した時に時間が――」
「うるせぇ」
主人公は持ち前の悪に対して容赦のない正義感で魔王を攻撃するとき、
視界がぐにゃりと歪んで、あたりの風景が一変した。
気が付けば、魔王を倒す前に立ち寄った町の酒場にいた。
「な、なんだ? なにが起きたんだ? 魔王はいったいどこへ?」
「おいおい、兄ちゃん、魔王を退治しにいくのかい?」
主人公のひとり言を聞いた近くの男が冷やかしまじりに応えた。
「退治って……魔王は死んだんじゃないのか!?」
「何言ってるんだ。魔王はまだいるよ」
「嘘だろ……?!」
「昔に追い詰めたって人の話は聞いたけどな」
主人公はあのとき魔王が言いかけた言葉を思い出した。
殺した時に時間、と言っていた。
「時間が……巻き戻ってる……!?」
魔王を倒した瞬間に時間が巻き戻ってしまった。
せっかく倒した魔王も巻き戻されて復活しているのか。
「どうしたよ、兄ちゃん、そんなに暗い顔をして」
「これじゃ……これじゃもう世界は救えないじゃないか……!」
殺すたびに時間が戻ってしまえば、いつまでも倒すことはできない。
いくらすさまじい力を主人公が持っていたとしても、それは同じ。
「でも、ここで諦めるわけにはいかない。
俺は主人公なんだ。世界を救う必要があるんだ」
元プロがコーチに転身するように、主人公も教える側に回ればいい。
どういうわけか、時間が巻き戻ったのに記憶は残っている。
この記憶を使って魔王のもとまで、別の冒険者を連れて行けばいい。
そして、魔王を倒せばこの呪いも解けるのだと主人公は考えた。
「というわけで、冒険者を紹介してほしいんです。
ここは冒険者ギルドでしょ?」
「すみませんねぇ、実は誰もいないんですよ」
「は!? どうして!?」
「主人公様の噂は有名ですからね。もちろん、その力の偉大さも。
それだけに誰も冒険者としてついていく意味がないんですよ」
「そんな……。俺の力が強すぎるばかりに、
世界を救うのを俺だけに頼っているのか!?」
「それだけに圧倒的なんですよ、あなたは」
海外でプレーしてきた一流選手だらけのチームの中に、
近所のサッカー少年が入るような状況になれば、どうしても気後れしてしまう。
"自分が足を引っ張るんじゃないか"
"自分がいなくても勝てるじゃないか"
"やらないか"
すでに世界から冒険者はいなくなって、世界を救う重圧が自分だけにのしかかっていた。
「俺はすでに敵を殺すことができないんだよ!
殺せば時間が巻き戻る!
だから、魔王の場所までエスコートまでしかできないんだって!」
「しかし、それでも魔王とガチで戦わなくちゃいけないんでしょう?
昔に1度追い詰めて、手負いとはいえ、魔王ですよ?」
「あーーもう! なんでこう他力本願なんだこの世界は!!」
「しかし、主人公様。先ほどから気になっていたんですが……」
「ズボンのチャックが開いていることか?
これはこういうファッションなんだ。気にするな」
「それではなく、どうして呪いを解くことを考えないんです?
あなたに協力する冒険者を探すことよりも、
あなたの時間が巻き戻る能力を解除したほうが、話が早くないですか?」
「……あっ、そうかも」
主人公は納得した。
転生時に持ち込んだスマホを使って、どうやって充電しているかの描写もないまま
あっという間にマップで解呪師の場所をぐるなびで検索した。
「★5……ここだ!」
解呪師の場所へやってきた主人公は事情を細かく説明した。
「殺すと時間が巻き戻る呪い? そうは見えないけどねぇ」
「それはあんたの力が足りないからだろ。
とにかく、呪いを解除してくれ」
「正直に言って、解除はできない」
「できない!? あんたそれでも★5かよ!!」
「半分は親戚に入れてもらったサクラだから」
「詐欺過ぎる!!」
「ただ、解除はできないが、発動を止めることはできる。
時間が巻き戻る瞬間を検知して、巻き戻りを無効化はできるよ」
「……呪いそのものはなくならない、その場しのぎってわけか。
それでもかまわない。魔王を倒せば魔物はいなくなるし、呪いも解けるはず。
1度だけ巻き戻りを防げるならそれでいい」
「では解呪をはじめる」
解呪師はお尻で割りばしを割ると、主人公に巻き戻り防止の加護を与えた。
「これで巻き戻りは食い止められるよ。せいぜい頑張りな」
「よし、行ってくる!!」
主人公は再び魔王の住処へと向かった。
一度、時間が戻ったことで改築したのか内部は大きく変わっていた。
それでも持ち前の能力を駆使して、敵を殺さないようにしながら先へ進んでいく。
以前よりもずっと時間と手間がかかって最深部に到着した。
「貴様、また懲りずに来たようだな」
「魔王。悪いが時間の巻き戻りはもう通用しないぜ」
主人公が武器を構えると魔王はぷっと噴き出した。
「あははは! 貴様はまだ何もわかっていないようだな!」
「わかってないのはお前の方だ。
ここでお前を瀕死にして、町に持ち帰って拷問し、
呪いの解除方法を聞き出してから殺すことだってできるんだ」
「もし、我輩が自分で自分を一時的に仮死状態になれるということ
お前は知っているのかな?」
「なに!?」
魔王は自分の胸に手を突き刺して一時的な死亡状態を作った。
思えば、以前もとどめを刺す前に時間が巻き戻っていた。
視界がぐにゃりと歪むと、すでに魔王の住処ではなくなっていた。
「こ、ここは……!?」
暗い雰囲気の魔王の住処から一変し、あたりはお祭りムードの街に来ていた。
「時間が巻き戻ったのか? でも巻き戻りは防いだはず……いったい何が起きている!?」
主人公はわけがわからなくなった。
実は二重に巻き戻りの呪いがかけられてて、二個目が発動したとか。
ぐるぐると考えても答えは見つからない。
まずは状況を理解するためにお祭りに浮かれる人達に声をかけた。
「おい、いったい何の祭りをやっているんだ?
巻き戻り前はこんな祭りなかったぞ」
「魔王討伐祭をやってるのさァ。
もう魔物におびえることなく生活できる喜びを祝ってるのさァ」
「魔王討伐祭!? なんだ、もう倒してたのか!」
「もうすぐ、英雄の神輿がくるぜィ」
あのとき、魔王を倒していたんだろうと主人公は納得した。
なにより世界が平和になって英雄になれたことを誇らしく思った。
「わっしょい! わっしょい! わっしょい!」
英雄の姿をかたどった神輿を見て、主人公はブチ切れた。
「お、おい! なんだよ、この神輿は!?
英雄は俺のはずだろ!? どうしてギルド受付のオヤジなんだよ!」
「あんたこそ何言っているんだ。魔王を倒して世界を救った英雄も知らないのか?」
「そんな馬鹿な!?」
「昔にギルドの受付をやっていて、そこに訪れた冒険者から
他力本願だと言われたことが引っかかり冒険に出て、魔王を倒した。
今じゃ、どの子供も知っている有名な話だよ」
「俺が倒せずに、ギルドのおっさんが世界を救うなんて……。
……ん? む、昔? それは昔ってどういうことだ」
「あんたはホント変な人だよ、昔は昔だ。今から何十年も前の話さ。
それがいったいどうかしたのか?」
主人公はやっと自分にかけられていた能力の秘密を理解した。
どうして2度目の冒険は以前より苦労したのか。
どうして魔王は「何もわかってない」と笑ったのか。
どうして巻き戻り防止が機能しなかったのか。
「呪いは巻き戻りじゃないのか……」
よぼよぼに老け込んだ自分の姿が、鏡の中に映っていた。
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