化物都市

しーん

第1話ここは異世界ですか、いえ地獄です

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

逃げろ逃げろ逃げろ!なんなんだよなんなんだよ!

いきなり目が覚めたらスクランブル交差点の中心にいて、ふと近くを見るとトイプードルがいるー、かわいいなぁ、と思って触ろうとしたら首が3つに分かれているただの化け物だったってどういう状況なんですかこれ!?

そんな焦って逃げている俺に構わず化物はどんどん追っかけてくる。

「いやだぁぁぁぁぁ!死にたくナィィ!」

と俺の視界は反転した。何か救いの手を差し伸べてくれるような出来事でも起きたのか、と思ったがただ転んだだけだった。

「グハッ!?」

ちょうど跪くような体制になったところで例の化け物は俺の目の前にいた。

『guruuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu』

ア、オワタ、コレヤラレルヤツダ。

「ひっ…ヒィィィィ!」

ムダだとわかっていたがとっさに頭を隠した。

あの世に行ったら何しようかなぁ、女子ときゃっきゃうふふしてぇ。

なんてことを考えていたら何か斬撃音が聞こえた。

って俺生きてる!?生きてるのか!?

と興奮していたら目の前の化け物から赤い噴水が放出されていた。

「…………ッ!?」

それと同時に1人の少女が舞い降りていた。

「あなた、大丈夫?」

あぁ、人間の言葉だぁ。なんてすばらしいのだろう。

次の瞬間、俺の視界が真っ暗になった。






「んなああああああああああああああ!?」

叫び声と同時に体が起き上がった。

「やっと目が覚めたのねヘッピリゴシ」

「………っ!?」

と隣には謎の少女が。

「って、あーーーー!お前あの時の!」

「そうよ、あの化物が頻繁に活動をしている交差点の中を叫びながら逃げていた哀れな少年に救いの手を差し伸べてあげたあなたの救世主よ」

「とりあえず助けてくれたことは感謝する」

「当然よ、感謝されるのは。だってあんなとこでうろちょろしていたら普通は見殺しにするもの」

感謝をしているはずなのにどこからか何かが煮えたぎっているのを感じるのは俺だけだろうか。

「じゃあ、なんで助けたんだよ。」

「気分よ、き・ぶ・ん!」

口を開くとムカつくことしか言えないのか、この女は。親の顔が見て見たいぜ。

少女をよく見て見ると口調通りのスタイルだった。

雪のごとくサラサラな白銀の髪に、服装は漆黒のロングコートにロングブーツ。どっからどう見てもふつうの女子が着るようなものではなかった。

「てかアンタ、何者なんだ。なんていう名前なんだ。ここはどこだ。どういう状況なんだいま?」

「質問は一つづつにしてちょうだい。私もそんなに万能ではないから」

たしかに。

「じゃあ、まずアンタが何者かおしえてくれ」

「 人に正体を描く時はまず自分から名乗るって習わなかったかしら」

そうだった。えーと、俺の名前は…

「……なんだっけ?」

「は?」

「俺の名前ってなんだっけ」

「とぼけるのもいい加減にして」

「いや、本当なんだって。俺がどこの誰かわからないんだって」

俗に言うってやつだ。

「じゃあ、あなたは自分が何者かもわからないのに相手のことを聞こうとしたの?」

「…………うん」

「そこまで常識知らずとは、あなたはバカじゃなくてマヌケと呼ぶべきかしら」

言い返す言葉もございません。でも、これは何を隠そう真実である。俺にはどうしようもすることもできない。

「まぁいいわ。嘘をついているようには思えないし、特別にアンタに正体を明かすわ」

俺が何かを思考する間も無く口を開く。

「私の名前は黒崎凛花。年齢は17。ここ、『レジスタンス』で特攻隊長を務めてるわ」

「?。レジスタンス?」

「そうよ、あの化物を倒すために結成された軍隊みたいなものよ。」

「 なるほど。じゃあ、どういう風に成り立ってるんだ?軍隊っといってもただ全員で突っ込むものじゃないだろ」

「レジスタンスは3つの部隊に分かれているわ。一つは助かるかもしれない人々を救う救命部隊、一つは化物の生態を研究する研究部隊、最後に化物を駆除したり研究部隊に明け渡すために捕獲をしたりする特攻部隊よ。私はその特攻部隊の長なの」

「じゃあ、なんで特攻部隊のアンタが俺を助けたんだ?」

「だから、気分だって言ってるでしょ!」

「いやでも、救命部隊に任せておけば良かったんじゃないのか?」

イライラしているのだろうか、なぞのオーラが黒崎の周りに浮遊しているような気がした。

「あ〜の〜ね〜、いつも通り特攻部隊の仕事をしていたらたまたまあなたがスクランブル交差点で雑魚化物相手に逃げ回っていたから仕方なく行ったんですー!あの時都合悪く救命部隊が近くにいなかっただけですー!」

口を尖らせて耳元で馬鹿みたいに大きな声で言った。こいつは俺の鼓膜を破つもりかっての。

俺が口を開こうとしたその時

「お〜いおい、なんの騒ぎだこりゃ、騒いでもらってはこちらとしては困るんだがねぇ」

右奥から医者と思わしき白衣を着た髪の毛がぐしゃぐしゃになったオッサンが出てきた。

「すまん、リグレット、しかしこいつがだなぁ」

「喧嘩なら他所でやってくれ、ここは寝ている患者がたくさんいるんだ」

たしかに、あたりを見回すと老若男女いろんな人が壁に寄り添いながら寝ていた。辺りに迷惑にかからない程度の声で……

「リグレット、ここはいったいどこなんだどういう場所に俺らはいるんだ?」

「患者に呼び捨てされるのがちと癪に触ったがまぁいい。ここは救命部隊が見つけてきた人々を匿っているシェルターだ。安心しろ、化物はここのことを知らない。」

「まだってどういうことだ?まさか、あいつら学習能力があるのか!?」

「学習能力とは、違うわね。あいつら、日に日に嗅覚が優れているのよ。ここのシェルターもあと何日もつのやら」

俺の質問に黒崎が答えた。反省してるのだろうか、口調と声量はさっきよりはマシになった。

俺の疑問を次々と解消している途中に頭上のランプが赤くサイレントを鳴らしながら点滅し始めた。

『緊急事態、緊急事態、モンスター侵入、至急各部隊は備えよ。緊急事態、緊急事態…』

「…………!?」

「リグレット、こいつを頼む」

「任せとけ」

四方八方から足音がなる中、黒崎は立ち去ろうとした。

「待ってくれ!最後に一つ質問!」

「何?」

「ここは、ファンタジーものによくある異世界みたいなもんなのか?」

そんな馬鹿げた質問に彼女は冷酷に答えた。

「バカ言ってんじゃないわよ。ここは異世界じゃない、ただの地獄だよ。」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

化物都市 しーん @ryoga2331

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る