ワールドサイドー13

 気配を察知して、リチャードは目覚めた。ホテルの廊下に面したドアの前に誰かが立っている。人数は二人。他の部屋の客ではない、ドアの付近に立ったまま全く動かない。

 窓からの月明りだけを頼りに、リチャードは知らぬ間に寝ていた椅子から腰を上げ、足音を立てぬよう件のドアに近づいていく。

 リチャードがドアの鍵を開けると、二人の男は即座に反応し、出てくるリチャードを待つ。武器を構えるでもなく、ただ待っている。耳には通信機に繋がるイヤホンをして、真っ黒なスーツに身を包んでいる。リチャードは彼らが普段用心警護の任務を負っている人間だと気が付いた。

「守ってくれと頼んだ覚えはないが」

「しかし、私たちは依頼されていますので。あなたをこの部屋から出さぬようにと」

「何だと? 誰がそんなことを」

「お答えできません」

 二人の男はリチャードよりも背丈が大きく筋骨隆々としている。壁のように立ちはだかり、絶対に通さないと両手を広げた。

 リチャードは怪訝な表情だが、押し込まれるように部屋に戻る。さて、なぜこんなことになっているのか。誰が彼らを送り込んだのか。考えていて気が付いた。そもそも、リチャードのの居場所を知っている人間は上司だけ。そして、部屋から出すなというのは、守るためではなく行動を制限するため。リチャードがいると都合の悪い何かが行われているということだ。

 リチャードは部屋の隅に身体を寄せ、出来る限りの助走をつける。窓ガラスに向けて迷いなく駆け出し踏み込んで、空中へと飛び出す。窓ガラスの割れる音が帝都の夜空に響く。入り口を見張っていた男たちは何事かと中に呼びかけるが返事はなく、ドアも鍵をかけられていて開かない。

 リチャードはガラスの破片と共に地上に落下していく。聞こえる音は風を切る音だけ、見えるのはみるみる近づく地面だけ。道路を歩いていた酔っ払いが、五階という高さから飛び降りてくる人間を見て腰を抜かす。

 着地したリチャードを身体を裂くような衝撃が襲う。足が耐えられるかどうかわからなかったが、リチャードは賭けに勝った。無事な身体で、目的地に向けて嵐のように走り出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る