ワールドサイドー12

 リチャードは決めかねていた。上司への定時連絡の時間が刻一刻と近づいている。それまでに、結論を出さなくてはいけない。ここで嘘をついても、全てが先送りになるだけだと分かっていた。

 あの歳で自らの死を受け入れる覚悟を持っている。そんな馬鹿なことはない。アルを英国から連れ出したのは命令があったからだが、同時にそれしか英国の暴走を止める術はないと思ったからだ。それがこんなことになるとは、想像もしていなかった。無責任な話であるが、今となっては過去の自分を恨むほかない。

 定時連絡の時間。リチャードは震える手で通信機を取り出し、上司を呼び出した。すぐに反応があって、リチャードは唾を飲み込んだ。

「定時連絡ご苦労。それで、今日の成果を聞かせてもらおうか」

「……はい、申し上げます」

 リチャードは無意識にため込んでいた息を吐き出し、口を開いた。

「新しい情報を得ることができました。博士曰く、自身が死ねばタイムマシンが英国の手に渡ることはないということです」

「裏は?」

「取れていません」

 上司は沈黙し、リチャードは額から汗を流す。

「結局のところ、今回の収穫はタイムマシンの存在を博士が認めたということか」

「そうなります」

 流石に上司は冷静だと、リチャードはほっとしていた。これならば、アルをすぐに処刑するという判断にはなるまいと。

「ご苦労だった。引き続き、調査を続けるように。タイムマシンの在りかを聞き出すことを最重要任務とせよ」

 それで通信は終わる。リチャードは肩透かしを食らい、通信機をベッドに放り投げた。自分の考えは行き過ぎたものだったのか、そう考えたが、やはり自分の危惧している事態は遠くない未来にやって来ると確信していた。そういった時に、自分はどう動くべきなのか。リチャードは空に浮かぶ月を見ながら、思案に耽った。

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