第2話 位納くんは初見する
前回、位納正拓が降りたった地は、もやにつつまれていました。
「……サーモグラフィーセンサー、特に異常なし。生物の反応も、なし」
正拓の目に搭載されたサーモグラフィーセンサーでも、何も見つかりませんでした。それはそうです、私でさえ生き物ではないのに……おっと。
「課せられた任務を確認します。」
正拓が空中にデジタルパネルを映し出すと、【拠点の建設】【人ならざる個体の確認】【探索用機能を使って生物を一匹発見する】とヤマト語で書かれていました。
「重要度の高さから、拠点を建設する事が賢明と判断。拠点を建設し始めます。」
彼がわざわざ口に出して行動をしているのは、500年先の未来に5分越しに活動記録を届ける為なんですね。
『ザー……位納正拓くん。スペンサーだ。基地素材に破損は無いな?』
通信は今のところ、精度はあまり良くありませんが、正拓くんの耳へと直接届きます。基地素材の中には、どうやらテレビ通信用の物もあるようです。
「破損は確認していません。」
『それじゃあ、そっちの時間の一日で建設してくれ。何が来るか分からない』
「承知しました。」
基地の素材をパズルのように組み立てていく正拓。強度は充分ありそうです。
「──Mr.スペンサー。人ならざる個体とは、どのような個体か文献はあるのでしょうか?」
『そうだな……性別不明、年齢不詳、ただヤマト国と同じような和服を着ていたそうだ。 って教授、最初にアンドロイド側から聞いてくる事もあるのか?』
「音声が漏れています、Mr.スペンサー」
『ああ、すまない。それで基地建設は順調か?』
「はい。私はフソウについて何も知りませんが、その個体に会うのが楽しみです」
『……楽しみとかあるんだな。』
「ですから音声が漏れています。」
そして、基地建設中の正拓に密かに背後から近寄る一つの影。
「!」
そう、私です。ナレーション兼、人ならざる個体の私が現れたのです。
「あの……貴方は、何をしてらっしゃるの?」
正拓は、ゆっくりと振り向いて私の方を見ました。
「通信が聞こえますか?人ならざる個体の方から出向いてくれました」
「まぁ、私の事は人ならざる個体と呼ばれているのね!なるほど」
「どうやら女性のようです。……5分後に応答を待ちます」
頭に金の冠のような物を乗せて、純白の和服を着て突如現れた私を見て、正拓くんは驚きもせずに通信相手からの応答を待っているようでした。
「それで……あなたは、人間じゃないのよね?」
「はい。アンドロイドです」
「アンドロイド!よく分からない技術で作れそうな機械ね!何となく知ってるわ」
「科学技術です」
「科学というのね。私、興味が沸いてきたわ」
「私も興味が沸きました」
そして数分が経ち、ランドルフの声で応答が来ました。ところでなぜ私がスペンサーやランドルフという人名を知っているかって?ナレーション兼務のサガというものです。ご都合主義でごめんなさいね。
『……誰と出会ったんだ、正拓? 人ならざる個体の方からと聞こえたが、居ないようだけど』
「カメラに映っていないのですか?」
『5分後に質問が来ると思って先に答えておくが、カメラには誰一人映っちゃいない。キミの目から見える身体の一部以外は』
「あら、私見えないみたいね。 そのカメラっていう物に」
「実体があるか確認します。触ってもよろしいですか?」
「ええ、どうぞ?」
肩や頭、手足を触って確認した正拓。でも私の体は半分触れるような感じになっていて、触れた手が少し私の身体に入っていくのです。
「……謎の感触です。シャボン玉が割れずに、指で中まで突けるような。貴方は人間では無い事が確認できました。しかし、幽体でも無い。」
「幽体なんかじゃないわ。私はここら辺、いやこのフソウ全体を見れる存在なのよ」
「データベースと照合した所、それはいわゆる【神】と呼ばれる存在に等しいのですが、貴方は神なのでしょうか?」
少し考えたけど、大して神っぽい事もしてなかったので、
「ま、そんな所ね。」
適当に軽く返しておきました。ランドルフさんはどう反応するんでしょうか?
「Mr.ランドルフ。基地の建設途中で人ならざる彼女を発見してしまったのですが、任務はどうしますか? 彼女の存在について記録を集めるべきかと」
『基地を建設しながら話す、っていうのはできないのか?』
「残念ながら、負荷考慮の為 マルチタスクは設計に含まれていません」
『親バカ教授め……。じゃあ、彼女の家に案内してもらいなさい!』
ここまで、省略しましたが20分ほどかかっていました。面倒ですね、500年越しの通信って。
「あ、私 家なんて持ってないのよ? 適当にフラフラしてるだけ」
「だそうです。彼女の声は届いていますか?」
『かろうじて。それと、こちらから彼女への質問内容を30分以内に送るから、それまで基地の建設を優先してくれ』
「分かりました。」
これにも、15分ほどかかっていました。本当に面倒ですね。
「……基地の建設を優先します。失踪はしないで下さい」
「どこにも行かないわ。貴方が気になるから」
そして、基地外観だけ手早く完成した頃に、通信が届いたようです。
「では、質問があります。貴女はもやを起こせますか?」
「ええ、あのもやは全部私が起こしたものよ」
「次の質問です。他に人類らしき存在はフソウで発見しましたか?」
「居ないわ。あえて言うなら私だけ」
「次の質問です。あなたは不老不死ですか?」
「言われてみれば、年も取ってないし……そうなんじゃないかしら?」
「では、最後の質問です。……なぜ、外と対話をしないのですか?」
「その質問には答えたくない」
「だ、そうです。記録できましたか?応答を待ちます」
「会話に5分かかるなんて、どういう所と話してるのかしら?」
「500年後の未来です」
「まあ!」
正拓は、真剣な顔で私を見つめました。機械に真剣な顔が出来る事が驚きです。
「ところで、なぜ貴方は最後の質問だけ答えなかったのでしょうか?」
「それは単純よ、言いたくなかっただけ」
「最後が一番重要だと思われるのですが。どうしても言えませんか?」
「どうしても今話させたいなら、私の力で貴方を粉々にも出来るのよ? それくらい言いたくないって事なの。理解してくれた?」
「……理解しました。強硬手段は取りません。打ち解ける事を優先します。」
「賢明ね。500年後だとこんなに判断できる機械があるのね」
「機械の存在は知っているようですが」
「上空にたまに見えるから。知ったのは最近よ」
タイトル詐欺と言われる前に、位納くんの異能力を紹介したい所ですが、今回の記録はここまでです。また次回をお楽しみに。
「そういえば、貴方は水を飲めますか?」
「ええ、飲めるけど。どうして?」
「バージョンアップの新機能で、試してみたい事があります」
……どうやら、次回異能力が使われるかもしれませんね?
位納くんは異能使い @tubamitu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。位納くんは異能使いの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます