位納くんは異能使い

@tubamitu

第1話 位納くんは舞い降りる

 ──この話は、惑星ジアース、星暦2500年の事です。


 人類は500年間の間に、大きな進歩を遂げました。国々の会議をする場「コクレン」が設立され、ほぼ全ての国々が会議に参加したそうです。


 【フソウ】を除いては。


 さて、少し前に戻りますが、コロンヴィア合衆国大統領コロンボ・スペンサーは言いました。「フソウは謎過ぎる。何故会議に参加どころかコクレン結成の式典にも参加しないのか?」


 ……スペンサーにとっては、厄介な国扱いだったのでしょう。それからフソウをとことん調べ上げました。が、フソウの全貌は全く分からない。なぜかって?そもそも、フソウには「結界」という名のバリアが張られ、一部上空以外からは侵入できないのです。外から航空機で中を見ても、もやしか見えませんでした。


 結果、スペンサーはフソウを「干渉不可能な国」としました。しかし一部の有識者は言いました。500年前からこの状態であった、と。


 スペンサーは500年も前の資料など残っているはずが無い、と思いつつも資料を探しました。しかし資料はあったのです、案外身近な部分に。500年前の大統領の日記にそれは書かれていました。


「フソウ……それは、一つの人ならざる個体が支配する、謎に満ちた国だ。だが未来人ならきっと謎を解明してくれるだろう。私は未来に可能性を託す。」


 スペンサーは、人ならざる個体という言葉に惹かれました。そしてすぐに閣僚を集め、大統領として命令を下しました。


「たった今から、フソウ探索任務を開始する!技術者とコネクトのある者は過去へ時空間移動可能な技術者を集めよ!」

 若干、27歳のコロンボ・スペンサーはあえて「過去のフソウの探索」を命じました。それは若干ですが厳しい道のりです。なぜ彼がそうしたかというと、


「500年前の大統領の願いが叶えられたら、それはとても素敵な事じゃないか?」

 彼は大統領であると共に、ロマンチストでした。


 そして集められた人員。フソウ探索班が結成されました。

 フソウの隣国である【ヤマト国】から副首相と工学教授。

 諜報のスペシャリスト揃いである【エスパーニア王国】の諜報機関から、情報収集・解析のプロの長官補佐が招待されました。


「ヤマト国副首相の真海谷まみや 鈴造りんぞうだ。よろしく」

「同じくヤマト国、工学教授の位納いのう 正崇ただたかです。」

「どうも始めまして、諜報組織長官補佐のマゼンタ・ランドルフだよ」


 この三名の知識と技術を結集し、作られたのがそう……タイトルに登場する位納くん、位納正崇氏が開発したアンドロイドです。



「彼は私の息子同然です。私を愛し私と共に生きるよう設計された初期型を元に、探索に関するプログラムを加えた試作機……名づけるならば、位納 正拓せいたくとでもしましょうか」


 完成を称えた、スペンサー大統領とランドルフ長官補佐。

「さすがヤマト人、名前に意味がよく込められている。それで……いつごろ試運転できる?」

 スペンサーが問うと、位納教授はどんと胸を叩きました。

「試運転は既に済んでいます。暑い環境、寒い環境、どんな地にも耐えられ自力でサバイバルが出来ます。もう投入は可能です」

 安心したスペンサーですが、ランドルフは少し顔をしかめました。

「通りでアンドロイドが居なかったわけだ。情報を現代と過去で同期するのに時間がかかるんだ、すぐに連れてきてくれよ」


 連れてこられたアンドロイド・位納正拓は、とても位納教授に似ていて、確かに教授の言うように息子のようでした。同期プログラムをランドルフ氏が導入している間に、正拓は位納教授に問いかけます。


「これからすぐに過去に飛びますか?」

「そうだ、正拓。すぐにでも過去へ飛んでもらう」

「成功率は何%ぐらいでしょう」

「今の所、100%だ」

「という事は、これから失敗する可能性もありますね?」

「まあ、そんな心配をする必要はない正拓。ただ、戻るべき事が発生したらすぐに私に言うんだ。ホームシック以外で」

「ホームシックはありません。ご安心下さい」

「よし。行って来い」


 同期プログラムが正常に作動したのを確認したランドルフは、ゴーサインを出しました。いよいよ、出発の時です。


「いいか、500年前の上空に到着予定だ。結界は上空の直径2メートルだけ穴が開いている、そこにベースキャンプの素材ごと降ろす。ベースキャンプは自力で組み立てるんだ。」スペンサーは正拓にそう説明しました。


 ちなみに、現在の結界の穴は直径50㎝で、徐々に縮んでいます。それが過去で探索を行う理由の一つでもあったのです。


 タイムジャンプ装置に正拓とベースキャンプの素材を入れ、人間の彼らは息を飲んで出発を見守ります。でも、正拓は特に身動きはしませんでした。


「過去への発射、3秒前……2……1…… GO!」


 目の前から瞬間的に消えた正拓は、気がつくと霧に包まれたフソウのはるか上空に居ました。手探りでパラシュートを開き、素材と共にふわふわと降りていきます。


「穴を通過してから1750mを確認…フソウへの立ち入り成功です。聞こえますか?」


 正拓がふわふわと落ちていって5分後、地面に近づいてきたころにようやく通信は繋がりました。


『すまない、500年の通信には100年で1分……つまり5分かかるんだ。穴は通ったみたいだね。私はランドルフ、ちゃんと聞こえているよ』

「故障でなくて良かったです」

『それより、上空から見たフソウの眺めをレポートしてくれないか?』

「はい。もやだらけです。」

『やはりな…そろそろ地上に着いたか?まずはベースキャンプを建ててくれ』

「分かりました。そういえば、私の目に何かが搭載されているのをアップデート作業中に感じました。から聞いていますか?」

『ああ、それはこちらに5分越しに映像通信が届くカメラだよ。キミの目から見た情報が直接こちらに記録されていくようになっている。』

「スリープ中はどうなりますか?」

『……後で教授に聞いておくよ。それじゃ、健闘を祈る』



 こうして、位納正拓のフソウ探索は始まったのでした。え?さっきから語っている私は誰かって?それはまだ、秘密です。

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