手遅れということ

手遅れということ

　彼女のお父さんは除霊者、らしい。

　俺はお化けを見たことも無いし全く信じない。彼女も幽霊関係は全く信じていない。

　彼女のお父さんは普段は経理のお仕事をされていて、たまーに除霊のお仕事をするそうだ。ひっそりとネットにお仕事募集広告を出しているらしい。

　報酬は”度合い”に寄るそうだが、新車が買えるぐらいの額は最低でも求めるそうだ。相手によっては徹底的にふっかけるらしい。

　見積もりを提示した段階で8割は断られるらしい。お義父さんに言わせれば、「祓いたいと思う時点で、もう大丈夫」なんだそうだ。

　本当に厄介な案件だと「祓いたい」とは思わないらしい。むしろ憑かれたことすら気づかない。かといってやせ細ったり、イライラしたりするわけでもない。

　至って健康で、至って朗らかな人が、厄介な霊に憑かれていたりするらしい。

　お義父さんは、そういう人を見かけると率先して祓う。見返りも求めない。そっと近づき、そっと祓う。「あんた取り憑かれてるよ」なんて言わない。寡黙なヒーロー。

　浮気がバレる度に「俺は除霊してただけだ」と言い張っていたお義父さん。そのお義父さんが今、俺のお袋と一緒にラブホから出てきた。

　きっと除霊、だよね？