一球入魂
ふんわり塩風味
一球入魂
それは空の中心で太陽がギラギラとその存在を主張する日中。気温、推定四十度と言われるグランドで、長く続いた少年たちの奮闘は、ついに終盤を迎えていた。
一時に比べれば落ちたとは言え、まだまだ夏の風物詩であり、人気の高い高校野球。
毎年、幾多の少年がここで涙を飲む。
だが、自分たちが涙を流すのは勝ったときだけだと、ボールを握る手に力を込めた。
九回裏。ツーアウト、一、三塁。
点差は一点。
ここを一打逆転のチャンスとテレビではアナウンサーが勝手に盛り上げているだろう。
だからと言って、逆転なんてさせない。
投手であり、三番打者である坂上瑛士は、最後の打者に対し、大きく振りかぶって第一球を投げた。
球種はスライダー。バッターの嫌がるアウトコース低めだ。
綺麗に決まったが、判定はボール。際どいところだったが外れてしまった。
気持ちを切り替えて第二球を構える。
三塁に走者がいるが、最終回のツーアウトだ。送りバンドもスクイズもない。
それを裏付けるように、打者もすべてを出し尽くすつもりなのか、力いっぱい素振りをしている。
捕手のリードを受け入れ、強く頷いて合図をすると、第二球を投げる。
球種はカーブ。高めのインコースから外へ切れる、振らせる為の一球……、の筈だった。
甲子園には魔物が住んでいる。
その言葉を実現させるかのように、ボールは変化することなく、真っ直ぐ飛んでいく。
相手のバッターが、音が聞こえてくるほどに鋭くバットを振った。
バットは真芯でボールを捉え、遥か彼方にまで打ち返した。
試合は終わった……。
点差は二点。
劇的に、ドラマのようなサヨナラホームランで終止符を打たれた。
急に足から力が抜けて、マウンドで崩れ膝を着いた。まるで、ドラマや映画のワンシーンだ。
数多くのドラマを生む夏の甲子園。
サヨナラホームランなら、上出来だろう。
俺たちの夏は終わった。
一球入魂 ふんわり塩風味 @peruse
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます