鳥籠を貫く光

 ユキとシノは少しの間、呆然と天井を見つめていた。


 ユキがシノに、「上に行ってみよう」と声をかけた。

 シノは「うん」と答えて泣き出した。

 泣きながら、涙を袖で拭ってしゃくりあげながら、シノはユキの後ろに着いて行った。


 満月に転移するための魔法円は、もう動かなくなっていたが、それを使う必要もなくなっていた。

 満月は天井から溶けるようにして消えかかっており、塔の屋上にはたくさんの守護者たちの名簿、空になった女王の椅子、天球儀などが転がり落ちてきていた。


 満月がほとんど消え去った屋上からは、街が一望できた。


 天上の結界に、先ほど地下で見たカゴミヤ計画が実行された時代の映像が、大きく映し出されていた。

 そして結界自体が黄金色に輝きながら、少しずつ少しずつ、光の粒子となって雨のように街に降り注いでいる。

 映像は消滅していく結界と共に、徐々に薄くなっていった。

 ユキは、転がり落ちていた天球儀を拾い上げた。

 天球儀は、ユキの胸元でぼんやりと黄金色に光った。


「光った」


 ユキがポツリと呟くと、シノが弾かれたように顔を上げた。


「今、ユキの声、エトランゼの声みたいに、頭の中に聞こえたよ」

 シノが驚いた声でそう言った。

 ユキが「本当? 今のも聞こえてる?」と言うと、シノはうんうんと大きく頷いた。


「街の皆にも、聞こえるかな?」


 ユキはそう呟くと、屋上の端まで歩いて行き、街を見下ろして大きく息を吸った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る