「ありがとう」
エトランゼはびっくりするほど軽かったが、どんどん軽くなっていく気がして、ユキもシノも、不安に駆られながら運んだ。
階段を下りて、室内に入った時、カラスは項垂れていた。
顔は下を向いたままだった。
「コルボ様!」
シノが涙声で叫んだ。
管だらけの床をよたよたと歩き、カラスの眼前まで来ると、シノはエトランゼをユキに預けた。
「コルボ様!」
シノはもう一度呼びかけて、カラスの両腕を覆いつくしている管を力任せに引き千切っていった。
カラスは目を大きく見開いて、シノを見つめていた。
「ありがとう、コルボ様、今までありがとう。ごめんなさい。もう、もう、何にも我慢しなくていいからね」
シノはそう言うと、管から解放されたコルボの腕の中に、エトランゼの身体を横たえた。
カラスは、信じられないという顔でエトランゼを見た。
そしてすぐに、その顔はくしゃくしゃになって、ボロボロと涙が溢れた。
エトランゼの頬に、カラスの涙が落ちる。
エトランゼの瞳が、僅かに揺れた。
ユキとシノが目をみはる中、エトランゼの唇が小さく動いた。
「やっと あえた」
ユキとシノにはそう聞こえた。
「一緒に行こう、エトランゼ。今度こそ」
カラスが涙声でそう言うと、千年ぶりに動かす腕で、エトランゼを抱きしめた。
カラスが顔を上げた。
「ありがとう」
涙でぐしゃぐしゃの顔で笑っていた。
その笑顔を、下から何かが照らしていた。
見ると、足元の管や、シノが引き千切った管たちが、キラキラと光り輝いている。
四方を囲んでいる装置の中の水晶玉も、椅子の後ろの巨大な円柱も、そしてカラスとエトランゼの身体も、みんなキラキラ光っている。
水晶玉が光る砂粒のようになった頃、エトランゼとカラスも足元から光の粒子になって消え始めていた。
ジウの兄のように。
ユキは必死に涙をこらえているシノの手を、そっと握った。
シノはきつく握り返してきた。
「ありがとう」
全てが光の粒子と化す直前、エトランゼの声がそう言った気がした。
シノとユキが見守る中、千年以上も街を支えてきた二人の人柱は、たくさんの魔法の装置と共に光る粒子となって渦を巻き、やがてそれはものすごい速度で天井へと昇っていった。
天上をすり抜け、塔を貫き、満月から空へと一瞬にして昇っていく。
まばゆい光の弾丸は、結界を突き破り、大空へと舞い上がり、弾け飛んだ。
光の粒子は速度を緩め、枯れ果てた大地に優しく降り注いだ。
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