運命を背負う小鳥たち
突然だった。
それはそれは唐突に、静寂が訪れた。
ユキは、汗だくで顎が痛いほど食いしばっていた歯の力を緩めて、ひきつけを起こしたように乱れた呼吸を、少しずつ落ち着かせた。
何だ。
何が起こったんだ。
そんなことを思っているうち、頬に何かがポタリと落ちてきた。
そして、自分の手を誰かが握りしめていることに気付いた。
剣を握る手の上から、暖かい手が包んでいる。
顔を上げると、自分が掲げた剣が、エトランゼの頭のすぐ上の背もたれに突き刺さり、天球儀とエトランゼを繋ぐ管を切断していた。
そのまま首が痛むのも構わず、無理矢理上を見ると、目を見開いて、剣の切っ先を見つめたまま、ボタボタと涙を流しているシノが見えた。
エトランゼの叫びで身動きが取れなくなった自分の腕を、シノが前へ押し出したのだと解った。
「シノ」
ありがとうと言おうとした時、シノが両手を放してその場に崩れ落ちた。
ユキは、椅子に突き刺さった剣を抜いて横に置いてから、呆然とするシノに手を伸ばした。
今度こそ「ありがとう」と言おうとしたのだが、シノはびくりと動いて焦点の合わない瞳でエトランゼの方を向いた。
「そうだ……ユキ、手伝って?」
シノが震える声でそう言った。
ユキが驚いて「え?」としか言えないでいるうちに、シノはフラフラと立ち上がり、椅子にぐったりと座ったエトランゼの身体を抱きかかえた。
「シノ……?」
「会わせてあげたいんだ……コルボ様に!」
ユキはシノの必死な様子を見て、ようやく我に返った気がした。
「解った。急ごう」
二人がかりでエトランゼを担ぐと、サヨに教えてもらって滑り落ちた穴へ、身体をかがめてもぐりこんだ。
滑り落ちながら、ユキはカラスの部屋で別れる前にアヤと交わした会話を思い出していた。
『ユキ。この本、この、守護者の名簿。一番最初のとこな。ジュナ・キラナって書いてあるんだ』
ジュナ・キラナ。
ジュナがキラナ――ユキの家の祖先であるという証。
そして、カラスが続けた言葉。
『イーシャ姫の兄上の妃、リグ王太子妃は、カゴミヤ計画発動後、ジュナの家に、生まれたばかりのご子息と共に身を寄せられた。キラナの血は、ジュナの代で途絶えたが、リグ王太子妃とご子息が、キラナの家を継いだんだ』
ユキは自分の運命のようなものを強く感じた。
もちろん、ジウも、アヤもシノも同じように思ったろう。
これは自分たちの運命だ。
永い時を経て手渡された、未来への希望のカギを持って、道を拓くことこそ、自分たちの使命。
これから先、どんな困難があったとしても、千年以上もカギを守り続けてきた人々のために、絶対に負けちゃいけない。
絶対に、負けない。
心にそう強く決める頃、暗い穴から正面玄関へ出た。
もう開け放たれた扉から、二人がかりでエトランゼを担ぎ、カラスの部屋へと続く階段を下りていく。
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