降り注げ

 扉を開けたジウの視界は、魔法円が放っていた光の強烈な残像で埋め尽くされていた。

 その残像を除いても、カラスの言った通り外は明るく、眩しかった。

 ジウは何度かまばたきをして、視界が回復するのを待った。

 ジウの背に隠れているアヤとサヨも、ジウほどではなくとも眩しさに目が慣れずにいた。

 扉を開けた直後、エトランゼの凄まじい声は、唐突に止んだ。

 扉を開けたせいなのか、シノとユキのおかげなのかは解らないが、先ほどまでが激しかった分、異様なほど静かに感じた。


 目が慣れてきたジウが見たものは、枯れた大地と、そこに立ちはだかる大勢の守護者たちだった。


 塔にいた守護者全員が、ジウの前にこちらを取り囲むように整列し、槍を地面に突き立てて直立している。


 彼らの一歩前には、ジュナが立っていた。


 何も映すことのない虚ろな瞳で、こちらを見ている。


「ジュナ」

 サヨの震える声が聞こえた。

 ジウは剣を握りしめて構えた。

 ジュナの唇が動く。


「朝が来てはならない。太陽が上ってはならない」


「ジュナ……」

 ジウが呼びかけるが、当然、ジュナが応えることはなく、ジウのことなどお構いなしに、槍を構えたジュナは冷徹な声で続ける。


「結界を護るため。ひめさまの願いの成就のため」


「なあジュナ!」


「新たなる王よ。我らと共に塔へ参られよ」


 ジュナの言葉に、アヤとサヨが驚いて息を呑んだ。

「ジウを、エトランゼの代わりにする気か? そんなこと……」

 アヤが、怒りなのか恐怖なのか判然としない感情に震えた声で叫ぶ。

 言葉にならなかった続きを、泣きそうなサヨの声が続ける。

「そんなこと、できるわけないわ!」


 ジュナがゆるりとサヨの方を見る。


「代行者よ。あなたも塔へ戻られよ」


 サヨがびくりと肩を震わせた。

 アヤがサヨの前に出る。

「させるわけないだろ!」

 アヤの声は聞いたこともないほど、強い叫びだった。


 ジウは剣を構えたまま、ジュナを真っ直ぐに睨みつけた。


「ジュナ! もう全部、終わりにするんだよ。夜はもう、おしまいだ」


 ジュナはびくりと痙攣するように動いて、槍を構えた。


「抵抗の意思を確認。制圧する」


 ジュナの言葉に守護者たちが槍を構える。

 アヤがサヨを庇うようにして立った。

 ジウは、よく解らないが激しく渦巻く何かに突き動かされるように、ジュナに向かって駆け出した。

 ジュナが地面を蹴る。

 同時に守護者たちも駆け出す。


 アヤが思わず目を閉じた、次の瞬間。


 頭上から、聞いたことのない音がした。


 光の弾丸が結界を突き破って、空高く打ち上がった。ヒューンという音が辺りに響き渡る。

 未だ扉と外の境界にいるジウたちには、音の正体である光弾は見えなかった。

 直後に大きな爆発音と共に、光弾が弾け飛び、ジウたちの視界にも黄金色の光の雨が降り注いできた。


 アヤが何が起こったのか理解できず、困惑しながら黄金色の光の粒子を見た時、守護者たちの動きが止まった。

 皆一様に動きを止めて、一人、また一人とその場に崩れ落ちていく。

 兜に魔法円が一瞬浮かび上がって消え、足元からサラサラと硝子の粉のようになって、消滅していく。

 守護者だった光の粒子たちは、枯れ果てた大地に零れ落ちると、キラキラ光って地面に吸い込まれるようにして消えた。


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