さいごの休息

 カラスはサヨの笑顔を見て目を細めた。だが、すぐにまた悲しそうな顔に戻った。


「お前達が今見たのは、アータ博士がボロボロになった心で、必死に遺した記憶だ。そして、最後に浴びた光はマウナが遺した希望だ」


「希望?」


 そう聞きながら、アヤはジウの手の中の空の木箱を見た。


「あの光を浴びた者は目を保護される。少し暗く見えていないか? 色つきの眼鏡をかけたような状態になると聞いた。その状態なら外に出ても失明しない。数か月かけてゆっくり解けていき、外の眩しさに慣れた頃には完全に解除される魔術だそうだ」


 そこまで言うと、カラスは大きく息を吐いた。


「大丈夫か、アンタ」


 ジウは不安になった。さっきの映像で見た、装置に繋がれた時のカラスの苦しみ様は尋常ではなかった。もしかして、今も同じ痛みに耐え続けているのではないか。

 カラスはジウの問いには答えず、ジウをじっと見つめ返した。

 ジウの心配は更に大きくなった。


「おい、何だよ、何か言えよ」

「えっ、えっ、コルボ様、大丈夫?」


 シノまでジウの隣にやってきて、カラスの顔を見つめた。

 ユキもアヤもサヨも、心配そうな視線を投げかける。


「いや。すまない。大丈夫だよ」


 カラスは力なく微笑んだ。


「本当かよ。さっきの、あの魔術で見えた映像……相当しんどそうだったぞ」

「ふふ」


 カラスが笑った。

 コルボの笑顔と同じだった。


「優しいな。ジウ。アータ博士にそっくりだ」


 ジウは顔が熱くなるのを自覚した。


「なに言ってんだ、アンタ」

 動揺するジウに、ユキが「俺も、ずっとそう思ってたよ」と言い、肘で突いてきた。

「ズルい、ジウ! 俺も褒められたい!」

 シノは意味の解らない嫉妬をして口を尖らせる。

「アンタら、キモいぞ」

 アヤがそう言って、一歩下がって目を細めた。

 真っ赤な顔で抗議しようと、ジウがカラスを見ると、弱々しいがそれでも楽しそうに笑っていた。


 そんな顔を見たら、抗議なんて出来るわけもなく、ジウは特別に許してしてやることにした。

 悪い気はしなかった。

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