小鳥が飛び立つ時
扉へ
――もう、この街を終わりにしてほしい。
カラスは笑顔を消して言った。
――この街に、朝を取り戻してほしい。
ジウは、胸にシノから預かった首飾りを下げ、記録書を抱えたアヤと、視力を取り戻したサヨと三人で、地下通路を急いでいた。
最初に来た時とは違い、もう迷うことも悩むこともなく、真っ直ぐに「外へ」の道を進んでいく。
ろくに扱えもしない剣を、お守り代わりに握りしめる。いつ、ジュナに追いつかれるかも知れない。そう思うと、心臓が口から飛び出しそうだった。
だが、体力のないサヨの事を考えると、全力で走り続けるというわけにもいかず、サヨの速度に合わせているので、早歩きが精一杯だった。
ユキとシノとは、カラスの部屋で別れた。
全ては朝を取り戻す為だ。
『ジュナはこの部屋には入れない』
ジウはカラスの言葉を思い出した。
『ジュナは大切なひめさまを誑かした、敵国の人間である俺を憎んでいた。いつか自我を失い、自制を失ったら、私を殺してしまうかもしれないと、アータ博士に頼んで、この部屋には守護者と代行者は入れないように、扉を封印した』
何でアンタが憎まれんだよと言ったジウに、カラスは泣きそうな顔で微笑んだだけだった。
『今のジュナは、ひめさまの祈りを守る、ひめさまの願いを叶える、ということだけの為に動いている。既に自我は無いに等しいだろう。だから、エトランゼの願いの成就に邪魔な存在を、消すことを第一に行動している』
サヨは、カラスの言葉を聞いて悲しそうにカラスを見た。
『そうだったの。ジュナ、最近はエトランゼが市民を傷つけたくないって思ってるのも、解らなくなってたから』
そう言うと、サヨはアヤが持っている記録書にそっと触れて目を閉じた。
『これ、本だったのね。何だか解らないけど、強い力のようなものを感じたから。存在感が強烈っていうか……これが突然街に現れてから、エトランゼは酷く怯えるようになったの。だから、これが「アサ」という存在なんだろうと思ってた』
『アサが来てはならない、タイヨウが上ってはならない……か』
ユキがぼつりと呟く。
カラスはジウとサヨを順に見つめて話を再開した。
『ジュナは間違いなく記録書と、それを持つアータの末裔と、エトランゼの存在を知りつつ塔から出ていく元代行者という初の存在――サヨ、君を狙う』
ジウはずっと狙われてきたので、どこか慣れっこになっていたが、サヨは違うのだろう。今までずっと同じ屋根の下で暮らしてきたのだろうし。
暮らす……いや、それとは少し違うのかもしれない。
塔の中にいた者たちは皆、自我がなかったのだから。
『だから、これは危険な賭けだが、ジウ。君とサヨが外を目指せば、間違いなくジュナは外へ向かう、今はまだ、塔の中の、この部屋の扉の前にいるが、君たちが動けば、ジュナも動くだろう』
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