瞳に灯る光

 やがて降り注ぐ光もすっかり消えて、最後には白紙になった紙が、バラバラに千切れて、羽根のようにふわふわと舞い降りてきた。

 ジウは、今まで輝く光を見ていたせいだろうか、少し室内が暗くなったように感じた。


「きれい」


 サヨのあどけない声がした。

 ジウはゆるゆるとサヨを見た。

 アヤがサヨの隣で目を見開いて、サヨを見ていた。

 ジウは、何を驚いているのかと思って、サヨの顔を見た。


 大きな碧い瞳と、目が合った。


 ジウとサヨの間に、羽根のような白い紙くずが舞う。

 確かにきれいだな、と思った。


「あなたが、ジウ」


 サヨが言った。

 何を今更言ってるんだと、ジウはぼんやりした頭で思った。


「サヨ……見えるのか?」


 アヤの言葉を聞いて、ジウはハッとした。


「うん。見える。アヤ、変わらないね」

 サヨは、アヤの顔を見て、にっこりと微笑んだ。

 アヤの顔は、真っ赤になった。


「わー! スゴイ! 治ったの?」

「ほんとに?」


 シノとユキも驚いて、サヨの元へ駆け寄った。

「シノ、大きくなったね。あなたが、ユキ。きれいな人」

 サヨは見えるのが楽しくて嬉しくて堪らないと言うように、にこにこして答えている。


「どうして……?」

 ジウが呆然と呟くと、背後からカラスが答えた。


「サヨ。君の視力が失われたのは、魔術のせいだ。外へ出る為の最後の扉に、マウナが仕掛けた魔術によって、一時的に視界を遮断されていただけだ」

 アヤが素早くカラスの方へ振り向いた。

「何故そんなことを?」

 アヤの声は、責めているようにも聞こえた。


「外はな、ここよりはるかに明るい。眩しいんだ。何の手順も踏まず、準備もなしに外へ出てしまっては、生まれてからこの中から出たことのない、薄暗い世界しか見たことのない市民は、あまりの眩しさに視力を本当に失ってしまいかねない。だからマウナは、計画の長期化の恐れが強まった時に扉に魔術をかけた。正しく結界が解除されず、アータの記録書とハリの灯を持つ者以外が扉に触れた場合、眩しさで目を焼いてしまわないよう、眼球の表面に極小の結界を展開し視界を遮断する魔術を」


「……むずかしくてよくわかんないや」


 シノが情けないことを素直に言って、へらりと笑った。


「何の対策もしないで外に出たら目が悪くなっちゃうから、魔術で守ってくれたってことじゃない?」


 そうユキが解説すると、シノは「そっか」と言ってサヨを見た。


「よかったね、サヨ」

「うん」


 サヨは明るく微笑んだ。

 初めて会った頃の、人形のような印象とは大違いの、陽だまりのような笑顔だった。

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