懺悔と赦し
兄さんも。
兄さんもこうして守護者になったのか。
ジウがそう思った直後、光が一層強くなった。
一瞬の閃光の後、全ての映像が掻き消えて、光っていた文字たちが紙から浮き上がって、一文字一文字、剥がれ落ちてきた。
「何だ……これ」
光る文字や図形たちは、渦を描いて中心に集まると、薄い硝子の枝が砕ける時のような儚い音を立てて、粉々になった。
そうして、小さな小さな光の粒子となって、優しく、ゆっくりと五人の頭上に舞い降りた。
「すごい」
アヤが呆然と呟いた。
シノが涙でめちゃくちゃになった顔で、光が降り注ぐ天井を見上げ「うわーん」と大声を上げて泣き出した。
ユキは両手を差し出して、キラキラと降り注ぐ文字の欠片に触れた。
光輝く欠片たちは、ジウ達の肌に触れると、氷が溶けるように消えてしまう。
儚い光の粒を浴びながら、ジウは何だか心が暖かくなるような、そんな気がした。
『すまない』
ふと頭上からかすれた男の声がした。
五人が真上を見ると。キラキラと降り注ぐ光の向こうに、大きな本棚の前で崩れ落ちるように泣いている老人が見えた。
それは、すっかり白髪になり、痩せ細ってしまったアータ博士だった。
『すまない。未来の子供達よ。愚かな私たちを許しておくれ。無力な私を、許しておくれ。どうか、どうか、我々の代わりに……未来を……』
――ああ。
ジウはおいおいと泣き崩れる老人の背を見て、肩の力が抜けていくのを感じた。
何だかうまく言えないような、苛立ちとか、怒りとかそんなものがぐるぐると頭の中を掻き乱していたけれど、それが全部この哀れな老人一人のせいだなんて、全く思えなかった。
戦争とかいうのを始めたのは、アンタじゃないだろ。
アンタらの決断が無かったら、この街も燃やされてたんだろ。
なら、なんで謝るんだ。
アンタがいなかったら、俺らなんて、生まれてもいなかったじゃねえか。
生まれてなかったら、
兄さんにも、妹にも、
コイツらにも、
誰にも、会えなかったじゃねえか。
だから――
「いいよ。もう。泣くなよ」
ジウは我知らず呟いていた。
哀れな老人の背中は、まるでジウの言葉が聞こえたかのように、すうっと薄れて消えていった。
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