輝くは在りし日の記憶

 カラスは、目を開けてもう一度ジウの瞳を真っ直ぐに見た。

「ジウ。その箱の中の紙を、全て出してくれないか」

 カラスは記録書の原稿が入った木箱を、目線で指し示した。ジウは床に置きっぱなしにしていた箱を、乱暴に拾い上げた。


「アヤくん。手ぇ出して」


 ジウはまだ気持ちの整理がついておらず、混乱していて不機嫌だったので、ぼそりとぶっきらぼうに言った。何だか身体を動かすのも面倒だった。

 アヤは、訝しげな顔をして両手を差し出した。


 ジウはその上で、箱を一気に逆さにした。


「は? コラおまっ……」


 バサバサと派手な音を立てて、中の大量の紙が落下する。


 アヤの抗議の声は面倒なので聞こえないフリをした。

 最後の一枚がひらりとアヤの手のひらに落ちた直後。


 逆さまになっている箱の中から、七色の光が溢れだした。


「わっ何だこれ!」

 シノが叫んだ。

「アンタ、何やってんだ!」

 アヤが苛々した声で言いながら、ものすごい形相でジウを睨み付ける。

 サヨはアヤの斜め後ろあたりでおろおろしている。


「ジウ、箱、ひっくり返してみて」


 ユキがシノに落ち着くよう手で制しながら、ジウに言った。

 ジウは動揺しつつも「おう」と答えながら、箱をひっくり返した。


 箱の底板には、もう何度も見た、アータ家の家紋を使った魔法円が輝いていた。

 そしてジウのライトグリーンの瞳が、その魔法円を映したと同時、光は更に強くなった。


 すると、アヤの手の上や床に散らばっていた紙達が、一斉に舞い上がって円を描き、五人の周囲を取り囲んで渦を巻いた。


 紙は、キラキラと光輝きながら、つむじ風に踊らされるように天井へ舞い上がっていく。

 目を凝らして見ると、キラキラ光っているのは紙に書かれた無数の文字や図形たちだった。



『ねえ。あなた、まるでカラスみたいね』

 突然、頭の中に声が響いた。

 同時に舞い上がる無数の白い紙たちの上に、ぼんやりと映像が浮かび上がった。

 白銀色の髪に碧空色の瞳をキラキラ輝かせた、愛らしい少女――イーシャ姫だった。


『なら、私はカラスと名乗りましょう』

 イーシャ姫の前で、黒ずくめの男が跪く。


「コルボ様!」

 シノが叫んだ。


『貴女のお名前をお伺いしても? エトランゼ』


『エトランゼ? 素敵な響きね。私はエトランゼと名乗ることにするわ』


 いたずらっぽく微笑んだイーシャ姫は、とても可憐だった。

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