それは眩しいほどの幸福
『姫様、お待ちください!』
背後からジュナの声がした。振り向くと、ジュナが慌てた様子で駆けていく映像が浮かび上がっていた。
『早く、早く、お城の外に出るのは久しぶりよ』
ジュナが駆けていった先には、先程より動きやすそうなドレスを着たイーシャ姫が、楽しそうに笑っている。日傘を持った侍女達とジュナが、活発な姫様に振り回されながらも、優しく微笑んでいる。
その映像は眩しいほど明るく、後ろに見える木々は緑に輝いて、天上は青く、白くふわふわしたものが浮いていた。
これが空か、とジウは思った。
シノが見たという夢は、きっとこんな風だったのだろう。
『アータ博士』
また別の方向からジュナの声がした。
『やあ、ジュナ。今日も良い天気だ』
こちらの映像のアータ博士は、穏やかに微笑み、両手にたくさんの本と工具を抱えていた。
『お手伝い致します』
『何、大丈夫だよ。ちょっと調べものと大工の真似事をしていてね』
楽しそうに話している二人は、夢でも見なかったほど明るく生き生きとしていた。
ジウは、ジュナの穏やかな笑顔を初めて見た。
キラキラ輝いて、空よりも眩しいくらいだった。
耳に届く声は、どんどん増えていった。
白い紙の渦の中に浮かび上がる映像も、どんどん増えて重なっていく。
心なしか、アヤに似た顔立ちの騎士が、白刃の槍を持ってジュナの前に跪いている。マウナだ。ジュナは彼に、獣の骨のような兜を手渡す。
アータ博士が家族らしき女性と、子供達と、笑顔で食卓を囲んでいる。
金の髪の綺麗な女性が、イーシャ姫と似た顔立ちの青年と寄り添い、幸せそうに微笑んでいる。女性は夢に出てきた、リグ王太子妃だった。
二人は、花や宝石で飾られた綺麗な衣装に身を包み、何かの乗り物に乗っているようだった。周囲を騎士と多くの市民に囲まれ、色とりどりの花びらが舞っている。
片目に眼帯をした少年が、年配の女性と二人で食事をしている。少年は頭に布を巻いている。目には隠しきれないほどの大きな傷があるのだろう。傷跡が眼帯の下から少し見えている。
そこに黒ずくめの青年が帰ってきた。眼帯の少年はみるみる笑顔になった。どことなくシノを思い出させる笑顔だった。
彼らが、リューとコルボなのだろう。
たくさんの人が笑っている。
はしゃいでいる。
穏やかな時間を過ごしている。
とても、とても幸せな時間。暖かな時間。
そんな映像がたくさん浮かび上がっては、消えていった。
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