少女の祈り
――制御されるって何だ。そんなモンで、この街の住人は。何の疑問も不満も持たず、自分の子供を塔に差し出して来たのか。
ジウは、息苦しくなって胸に手を当てた。
何故だろう。悔しかった。何かに酷く腹が立った。何に対しての怒りなのか解らないし、解りたくもなかった。
「サヨ。君も、あのまま代行者を続けていたら、いずれは自我を失っていただろう」
カラスがジウを見つめたまま、サヨに言った。サヨはびくりと肩を震わせた。
「代行者の役割は、元々、守護者の統率を担うジュナの役目だった。だが、ジュナは己が自我を失い、自制を失っていくことに気付き、後継者を探していた。そこに、砂嵐を突破して外への通路に入ってしまう市民が現れた」
サヨの顔を覆っていた手が、少し下がった。見えた瞳は、真っ赤だった。
「ジュナは、その市民を、外に出てしまう寸でのところで止め、塔に連れ帰った。そして、彼らはエトランゼの祈りの影響を、他の市民より強く受けていることに気付いた。彼らなら、エトランゼの祈りの声をしっかりと感じ、聞き取ることが出来る。ジュナは、彼らを塔に代行者として迎えたんだ」
「ちょっと待て。エトランゼは俺達市民が街の外に出ないように制御しているんだよな。その影響を強く受けるヤツが、何で外に出そうになるんだ?」
アヤが鋭い口調で言うと、シノも横で「ああ、そうだよね」と同調した。
「ちがう」
アヤとシノが同時に声の主を見た。
アヤの問いに答えたのは、涙声のサヨだった。
「エトランゼ、言ってた。わたし、今、思い出した。わたしが、暗いところを歩いてる時、聞こえたエトランゼの声」
サヨの瞳からぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。
「ここから出たい」
「あの人に会いたい」
「さびしい」
ジウの耳に、サヨの涙声が鮮烈に響いた。
まるで、エトランゼ本人の叫びのように聞こえた。
――ああ。
そうか。そうだった。
ジウも、アヤも、ユキも、ここに来るまでに何度も頭痛と共に聞いた、悲しげな声を思い出した。
確かにその声は――
「そう言ってたわ」
「エトランゼも、もう壊れてしまっているんだ」
カラスはそう言うと、目を伏せた。
「だから、もう、終わりにしなければ」
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