満月と守護者
「あの、ちょっといい?」
ユキが遠慮がちに片手を挙げて言った。
「満月がその、タイヨウの代わりだったのに、ツキ程度の弱い光しか出せなかったってことはさ、本当はもっと明るい街になるはずだったってこと?」
カラスはユキを見て「そうだ」と言った。
「じゃあ外は、ここよりもっと明るい所なの?」
カラスはもう一度「そうだ」と言った。
袖でごしごしと涙を拭いていたシノが、ハッと顔を上げた。
「あの、俺が見た夢の、キラキラでまぶしくて、暖かい場所……あれが外なのかな?」
カラスはシノを見て答えた。
「お前が見たのは、リューの記憶だったな。きっとそれは、結界が張られる前の街の姿だ。私とリューは、森の近くの家に住んでいた。その森は、今は硝子森となっている」
「えっ」
シノは目を見開いた。
ジウは、シノが言っていた夢の話を思い出した。確か、満月の塔の周りの大樹のような木がたくさんあったと言っていた。それが全て、硝子の木になってしまったということか。
「でもじゃあ、外は、あの夢で見たようなきれいな所なんだね」
「焼き尽くされてしまったんだろ。戦争で」
目を輝かせるシノに、アヤが水を差した。シノが目に見えて落胆する。二人に挟まれたサヨは、夢の話を知らないので、一人置いていかれて困っているようだった。
「ユキ」
不意にカラスがユキを呼んだ。
ユキは驚いたようだった。
「は、はい」
「お前が持っているのは、満月の内部にあったものじゃないか?」
ユキは、自分の手元にある本を取った。
「ああ、忘れてた。そう。思わず持ってきちゃって」
「中を見たか?」
「見たけど、読めないから……。でも、何となく人の名前じゃないかと思うんだ。そのくらいの長さの単語だし、全部筆跡が違うみたいだし」
ジウは、ユキの手元の立派な装丁の本を覗き込んだ。逆側からはアヤが覗いている。
中はユキの言った通りに、単語のような短い文字が箇条書きにされていた。
アヤが手をのばしてペラペラと何ページかめくった。ずっと同じような単語の箇条書きが続いた。
「それは、守護者の名簿だ」
五人は一斉にカラスを見た。
「守護者は、魔術を扱える血を受け継いだ、貴族の子孫だ。その血には、魔術を扱う術を忘れてしまったとしても、魔術を扱う為の素養――魔力が宿っている。守護者は、私とエトランゼ同様、街の結界と生命維持の為に、天球儀の動力源として捧げられた生け贄だ」
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