白き鳥の祈り
そこまで長々と語ったカラスは、一度大きなため息をついた。
本当に苦しそうだった。
ジウは、カラスの話が一段落したので、皆の様子をうかがった。
アヤは、途中まで、まるで答え合わせでもしているかのように、記録書を開いて、あちこちを見ながら話を聞いていたが、今は記録書を膝の上に置いて、眉間にシワを寄せてカラスを凝視している。
ユキは今まで見たこともないくらい真剣な顔をしていた。怖いくらいだった。
シノは、ボロボロと涙を流していた。
サヨは、何だか困ったような顔をしていた。何の話をされているのか解らない。そんな顔だった。
カラスの話は、ジウには絵本の続きの、物語のように聞こえた。現実感が持てない。
ふと、自分は今、どんな顔をしているんだろうと思った。
「朝が来てはならない。太陽がのぼってはならない」
カラスがかすれた声で言った。
「それはエトランゼが、女王の椅子に座って、天球儀に繋がれた時、強く祈った言葉だ」
――エトランゼの祈りの言葉。
そう聞いて、サヨが僅かに顔を上げた。
「次の朝が来たら、次に太陽が上ったら、街は、人々は、全て焼き尽くされる。人がたくさん死んでしまう。だから、そう祈って、天球儀を発動させたんだ」
まるで、絵本の文章のようだった。
ただ、絵本のおひめさまとエトランゼでは、背負っているものがあまりにも違う。
「朝とは、一日の始まりの時間のことだ。太陽は、地平の彼方から天に上り、大地を照らし朝を告げる、強き光だ」
一日の始まり。
そう言われても、ジウにはピンと来なかった。アサやタイヨウなどという言葉を知らなくとも、それらがないこの街でも、一日は始まり、終わり、明日は来る。
「エトランゼは、明日が来ないようにと祈った。そしてこの街には朝が来なくなった。この塔の頂きにある満月が発する光は、太陽の代わりだ。人間は、太陽の光が無ければいろいろな不調をきたす。人間だけじゃない。動物も、大地もそうだ。だから、偽物の太陽を作って、本物の太陽が上っているのと同じ時間、同じように光らせている」
アヤが、記録書をめくった。満月の図解が載っているページを開いている。
「だが満月は、予定よりもはるかに弱い、太陽とは比べ物にならないほど弱い光しか、出せなかった。恐らく、天球儀に繋がれたエトランゼの、朝が来ることに対する恐怖心が強すぎたせいだ。朝とは逆の、お前たちが戒厳時刻と呼ぶ時間帯は、本当は夜というんだ。夜には太陽ではなく、月という、優しい光が上る。満月とは、月のことだ。月のようにしか光らなかったので、人々はあれを満月と呼んだんだ」
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