月を頂く塔、鎮魂曲2
ジウが恐る恐る聞くと、サヨはふるふると首を左右に振ってうつむいた。
「ごめんなさい……守護者の人たちはおしゃべりしないから……。ただ、あの人は、いつもわたしの世話をしてくれたから。ベッドに連れていってくれたり、食事を用意してくれたり……手の感触や足音、気配、そういうのであの人だって解るようになってた」
シノが少し不安そうな声で、サヨに声をかけた。
「その人とは、どうしてもう会えないの?」
サヨは、スカートの裾をきゅっと握った。小さな白い手が震えている。
「消えてしまったの。気配が。ここに戻ってくることなく、消えてしまったきりで……どうしてか解らないけど、まだ駆動限界まで何年も何年もあるはずなのに」
そう言ったサヨの瞳から一粒、涙がこぼれた。
サヨの話は、ジウには半分くらい解らなかったが、それでも確信した。
サヨが言っているのは――。
ジウは胸が苦しくなった。
思わずサヨの足元に跪いて胸に手を当て、頭を垂れる。
「ありがとう。兄さんのために、泣いてくれるんだな」
「おにいさん……? あの人が、あなたの?」
サヨは目を大きく見開いて、顔を上げた。
その瞳はジウを映すことはなくても、ジウを感じ取ろうとしているのが解った。
サヨは、大粒の涙をぼたぼたと流して、遂にしゃくり上げ始めた。
「兄さんは、俺を守ってくれたんだ。最期に。さっきさ、アンタ、ジュナに向かって守護者は市民を護るための存在だって叫んでたよな。その通り、俺を護ってくれたよ」
ジウは慰めるように言った。自分も、泣いているサヨも。だが、サヨはさらに泣き出してしまった。
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい。わたし、わたしが、あの人に、お願い、したから……ジュナを、止めてって……だから……」
「そっか、アンタが」
なら。兄に最期にもう一度会えたのは――。
「ありがとう。アンタのおかげで、兄さんにまた会えた」
それが最期の時だったとしても。
「ごめんなさい」
サヨはもう一度振り絞るように言った。
ジウももう一度「ありがとう」と言った。
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