月を頂く塔、鎮魂曲1
穴の中は真っ暗だった。
しかも思いきり急勾配の滑り台のようになっており、ぐるぐるカーブする度に、身体が右へ左へ振り回されながらものすごい速度で滑り落ちていった。
ユキ以外は、最初だけそれぞれに声を上げた。シノは、着地するまでハデな悲鳴を上げ続けていた。
穴から最初に放り出されたのはアヤだった。前のめりに着地して膝を打ったが、痛みに耐えて素早く顔を上げる。
次に出てきたサヨをなんとか受け止めると、「あああああ」という悲鳴を撒き散らして迫り来るシノからサヨを護るため、穴から離れた場所まで連れて行った。
直後、シノは思いきり尻餅を着いた。痛みに悶絶しているシノの背に、ジウが前のめりに落下してきて、シノを押し潰した。
「ぐえ!」
シノが哀れな声を出す。
ジウが「ワリィ」と言って慌てて立ち上がろうとした所に、ユキが出てきてやはりジウにぶつかり、今度はユキとジウ二人でシノを押し潰した。
「うぇぇぇぇぇ」
シノが情けない声を上げた。
「わ、ごめんごめん」
ユキが慌てて謝りながら退いて、シノとジウを助け起こした。
「ここは正面入り口だな」
アヤが冷静に言うと、ジウも立ち上がって周囲を見渡した。
確かにそこは、先程サヨに出会い、守護者に囲まれた正面入り口だった。
守護者達はどこへ行ってしまったのか、もう誰もいなくなっていた。
「わたし、また下りてきてしまったのね」
サヨが震える声で言った。
アヤが困ったような顔でサヨの背中を見ている。
「エトランゼ……」
そう言いながら、サヨは両手を前に突き出してフラフラと歩き出した。
「ちょ……サヨ、どこいくの?」
シノが声をかけるが、サヨは答えずそのまま歩き、どこへ行きたいのか解らないが、ジウのすぐ横まで来て、わずかな床のヒビにつまずいてよろめいた。
「おい、大丈夫かよ」
ジウが反射的にサヨの肩を支えると、サヨがハッと顔を上げた。焦点の合わない瞳を大きく見開き、驚いたような顔をした。
「あ……あなた……?」
「ああ、悪い。自己紹介とかしてないもんな。ジウだ。シノとアヤの同級生だよ」
ジウは、誰に触られたのか解らず不安なのだと思い、自分の名前を告げた。サヨはしばらくそのままぼうっとしていたが、そっとジウの腕に触れて言った。
「あ、ううん。ごめんなさい。何だか、わたしの知っている人に感じが似てたから」
「知ってる人?」
ジウが聞くと、サヨの顔が悲しそうに歪んだ。
「守護者の人で、ずっとわたしの世話をしてくれていた人なの。もう、会えないけど」
ジウはどきりとした。もしかして、その守護者は――。
「そのさ、守護者の名前、わかるか?」
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