月を頂く塔、邂逅
満月の塔に入ったのだという確かな実感が湧く前に、ジウはカラスに言われた「少女」を見つけた。
螺旋階段の少し右横に、小さな穴が開いており、その前に真っ白な少女が立っていた。
ジウは思わず見惚れてしまった。
髪も、服も、全てが真っ白だった。
きつくウェーブのかかった、ボリュームのある白銀色の髪は、足首まで伸びている。
真っ白なワンピースの上に、カラスが着ていた毛皮のような上着の色違いとも思える、白いふわふわのボレロを着ていた。
カラスが大きな黒い鳥なら、この少女は、生まれたての真っ白な雛鳥のようだった。
少女は虚空を見つめて立ち尽くしている。
こちらに気付いていないのか、顔は向こうを向いたままだ。
「おい、アンタ」
ジウが声をかけると、少女の華奢な身体がびくりと跳ねた。
少女は声の主を探すように、フラフラと左右へ身体を動かした。両手を弱々しく前に出し、まるで暗闇の中を手探りで進むかのように、上下左右に不安げに動かしている。
「こっちだよ、後ろだ」
少女の身体がよたよたと少しだけ回転した。斜めから見えた少女の顔は、真っ白な肌に大きな碧い瞳、小ぶりな鼻と口の、あどけない顔つきだった。
カラスは、ジウたちと同じくらいの年齢だと言ったが、ジウにはもっと幼く見えた。
少女の瞳は、まだジウを見つけられないのか、虚空を漂っている。
「アンタ……」
「待ってジウ」
更に声をかけようとした時、ユキが制止した。
「あの子、もしかして目が見えないんじゃないかな」
ユキが小さな声で言う。ジウは驚いて、少女をじっと見つめた。何とも不安げな様子で、瞳は焦点が合っていないように見えた。
「あ! あれ! ねえ、アヤ! あの子、サヨじゃない?」
シノが突然大声を出した。
少女が、小さく飛び上がるほど驚いた。
「え? 何? 何か言ったか?」
アヤはぼうっとしていたのか、シノの話を聞いていなかったようだった。
「だから、サヨだよ! 小っちゃい頃、一緒に遊んだろ?」
「何……だって? サヨ?」
アヤは大きく目を見開いた。
「サヨ……なのか?」
少女はひどく不安げに、やはりこちらとは少しずれた方向を見たまま、弱々しい声で「だれ?」と言った。
「だれなの?」
「サヨ! サヨだよね! シノだよ! アヤもいるよ!」
シノが笑顔で一歩前に出ながら言った。
「おい、知り合いか?」
ジウが聞くと、シノは「多分」と答えた。
「小さいころ、硝子森の近くでよく遊んだ友達の一人だよ。五歳だか、六歳の時に……」
そこまで言って、シノが言い淀んだ。
アヤが小声で続ける。
「行方不明になったんだ。その後、両親も亡くなってる」
「何だって?」
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