満月の塔

月を頂く塔、入り口

 数分、気まずい沈黙が続いた。

 不意に、カラスが顔を上げた。僅かに眉がぴくりと動いた。


「代行者が――エトランゼ……君は……」


 カラスが呟いた。ジウ達には意味が解らない。


 ジウが何か言おうとした時、カラスが先に声を発した。


「お前たちに、頼みがある」

「何だ?」


 出鼻をくじかれて言葉に詰まったジウの横で、アヤが聞き返した。


「その扉から、満月の塔の一階に出られる」


 カラスが、管だらけの指をゆるゆると動かし、横をさした。

 謎の装置と管だらけでよく見えなかったが、カラスがさした先には小さな扉があった。


「階段を上ってすぐ、正面入り口に出る。その辺りに、お前たちと同じくらいの年齢の少女がいるはずだ」

「少女?」


 アヤが訝しげに言った。


「ああ。恐らく相当混乱しているだろうが。どうか、その子をここへ連れてきてほしい」

「どうして?」


 聞いたのはシノだった。


「このままでは危険だ。詳しいことが聞きたければ、戻ってから話す」


 ジウは、ユキやアヤの顔を見た。まだ少し迷っているようだった。

 そんな三人を尻目に、シノが「行こう」と声を上げた。


「よくわかんないけど、女の子が危ないんでしょ? じゃ行かなきゃ」


 言いながらシノは早速扉に向かった。床の無数の管に足を引っかけて転びそうになりながら、ヨタヨタと歩くシノの姿を見て、アヤがため息まじりに助けに向かった。


「待て。危ないのはどっちだ」


 そう言うアヤもバランスを崩しかけた。後ろからユキが支える。


 ジウはカラスを睨みつけた。


「戻ったら、全部教えてくれるんだよな」

「ああ。約束する」


 カラスはジウの瞳を見て答えた。


 扉の先は階段だった。

 上がってすぐにまた扉があったが、こちらは魔法で封じられていた。

 ジウが魔法円を見つめると、ガチャリと鍵が外れる音がして、扉は開いた。

 ジウが扉を押し開けると、そこは開けた場所になっていた。カラスが言っていた、塔の正面入り口に出たのだろう。


 ――ここが、塔の中。

 ――兄さんが暮らしていた場所。


 真っ白い内壁の所々に、ここに来るまでの通路を照らしていたものと同じ照明がぽつぽつと点在している。

 足元はツルツルの石で、きれいに磨けばさぞ美しいだろうが、今はくすんで汚れていた。

 ジウたちから見て右手には、仰々しい両開きの扉があった。あれが玄関口だろう。

 そして左手側の奥に階段が見えた。螺旋階段になっているようで、上に行くにつれてカーブしている。

 ジウは、あの記録書にあった塔の設計図らしきものを思い出していた。

 本当にあれは、この塔の設計図だったのかもしれない。


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