老いたカラスと戸惑う小鳥
絵本のカラス。
そう言われても、どう受け取れば良いのか。
ジウの頭は、全く追いつけないようだった。
他の三人の顔を見ても、感動しているらしいシノは別として、アヤもユキも困惑している様子だった。
「ここは……」
アヤが震える声で言った。
「ここは、あの記録書にあった『カラスの椅子』の部屋か」
「そうだ」
男――カラスはゆったりと答えた。
「閉鎖歴とは何だ」
「忘れ去られた時代の呼び名だな。今は、閉鎖歴九百九十八年だったはずだ」
カラスの答えに、四人は驚いた。シノは「えっ」と大きな声を上げた。
「いつの頃からか誰も呼ばなくなってしまった。閉鎖歴時代に終わりが見えないのだから、仕方ないことだが」
男はそう言うと、ひとつ大きなため息をついた。
少し苦しそうだ。
「あの……夢は?」
アヤが、恐る恐る問いかけた。
「あれは、お前たちの血の記憶だ。お前たちの身体を流れている血に刻まれた記憶が、私との繋がりを強めたことによって呼び覚まされたもの。遠い過去の景色だ」
アヤはカラスの指先辺りを凝視していた。何かを猛烈に考えている。頭の中の情報を整理している。そんな顔だった。
「俺たちがここに来るまでに、砂嵐の前で会った、シノが通路で見たっていう、あの黒い服の男の人は……」
ユキが聞くと、男は、目線だけをユキの方へ動かして答えた。
「それは、私の記憶だ。お前たちを女王から護るため、私との繋がりを強くした為に、お前たちの頭の中に直接私の記憶が流れ込んだ。そのせいで見えた幻だ」
「女王から、護る?」
「この部屋は、女王からの干渉を受けない。今なら、お前たちも少しは自由に考えられるはずだ」
言っていることがさっぱり解らない。
ジウは、心がざわざわして、息が苦しくなってきた。
この男は何を言っている?
自分は今、何をしているんだ。
この街は、満月の塔は、兄さんは――。
「なんなんだよ」
「ジウ?」
「何なんだよ!」
心配そうに覗き込んできたユキが、ジウの怒声に驚いて後ずさった。それを見ても、ジウは自分を止められなかった。
「女王って何だよ! あの記録書は何なんだ! 満月の塔は! この街は! 一体何なんだよ!」
そこまで一気に言って、兄の笑顔が脳裏に浮かび、言葉に詰まった。
「――兄さんは……兄さんは、どうして……」
それ以上は言葉にならなかった。
言葉にはならなかったが、自分が兄を失った悲しみと怒りを、カラスにぶつけてしまっていることに、気付いた。
ユキがそっと肩に触れたのが解った。けれど、涙を必死に堪えていたジウは、そちらを見ることができなかった。ただ俯いて、歯を食いしばっていた。
カラスは、悲しそうな瞳でこちらを見ていた。
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