夢と現実2

 ユキと二人で音がした方を見ると、アヤが本棚の前に立っていた。アヤの目の前の本棚が、ギリギリと音を立てて、勝手に壁の中に吸い込まれていく。


「ナニコレ! これも魔法?」

 アヤの横で、シノが目を丸くしている。

「ちがう。ただの仕掛けだ。歯車を一つ回せば全部が動く、そういうカラクリだ」


 アヤは相変わらず苛立ったように早口で答えた。

 そうこうしているうちに、天井まであった本棚がすっかり壁の中に消え、本棚があった場所より奥に、梯子が立て掛けられた壁が現れた。

 アヤは躊躇することなく、梯子に手をかけて上っていく。


 シノが慌てて追いかける。

「俺達も行こう」

 ユキに背を押され、ジウも向かう。


 梯子の先には、四角い扉があった。

 アヤは取っ手を必死に引っ張ったが、動かないようだった。


「替わるよ!」


 シノが言うと、アヤは梯子を下りてきた。シノはアヤと入れ替わって梯子を上ると、渾身の力で取っ手を引いた。

 少しして、ガチャンという金属音と共に取っ手が動いた。シノが扉を上に押すと、扉は少し上に浮いた後、ぎりぎりと音をたてて横に滑り、人が一人通れるくらいの隙間ができた。

 シノがその隙間から這い出ていくのを見て、アヤが梯子に手をかけた。ジウとユキも続く。


 ジウが頭を出すと、そこはレンガで囲まれた天井のない空間で、すぐ目の前に階段があった。久しぶりの地上だ。

 レンガはあちこちが崩れて、そこから力強い樹の根や、草が生えて、蔦が絡みついている。硝子森の樹々とは違う、生命力が満ち溢れた大樹。


 か弱い満月の灯りの中でも、その存在感は薄れない。

 いつも、見上げていた存在。


 アヤが階段を駆け上がっていく。

 吐く息が白い。

 ジウが追いつくと、アヤは階段を上り切った所で、上を見上げて立ち竦んでいた。


「夢じゃない」


 アヤは、小さく呟いた。

 瞳が大きく見開かれている。

 すぐ隣のシノも、アヤと同じものを見上げて、また目に涙を溜めていた。

 ジウも、同じ方角を見た。

 ユキが追いついてきて、同様に視線を上げる。


 解り切った答え。


 四人が見上げた頭上。

 四本の大樹に護られた満月の塔。


 それは、確かに夢の中で見た、お姫様のいる月光塔だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る