考察

 ジウは、アヤの言っていることは難しいが、この本を書いた人物が『カゴミヤ計画』の終わりを強く願っていたことは良く解った。

「何でだろ。やりたくないなら、やらなきゃよかったのにね」

 シノが呑気な声で言った。

「だから、やんなきゃいけない理由があったんだろ」

 ジウが素っ気なく返すと、シノは即座に「理由って?」と返してきた。

「だから、その、戦況の悪化ってヤツだろ。でも、戦況の悪化の意味がよくわからんって話を今してんだろ」

「そう。解らない」

 アヤが本を見つめたまま、ほとんど独り言のように言った。

「解らないけど、大昔に、望まれない計画を実行しなきゃならないくらい何か重大な困難が、この街に起こったってことだけは想像できる。もしそうなら、そんな重大案件が公の記録にも、誰の記憶にも残っていないなんてこと、あり得るのかな」

「千年も前なんだ。仕方ないんじゃね?」

 ジウが言ってみたが、アヤは納得がいっていないようだった。

「まあ、とりあえず、この本を調べるってことは『カゴミヤ計画』について知ることになっていくってことだと思う。だから、大昔何かあったんだってことは覚えておいてくれ」

 アヤはそう言うと、街全体の略図のような頁を広げて、本来砂嵐がある辺りの謎の建物の図を指した。

「さて。俺たちは今から、シノが見たっていう扉の辺りに行くワケだが」

 続いて満月の塔の設計図のような頁を開く。

「まず、この頁はこの図から見ても、恐らく満月の塔内部の見取り図、もしくは設計図だと思われる。あちこちに注釈が書かれているから、その中で読めたものを読むと……」

 そう言うと、アヤはてっぺんの球体を指して、その横の注釈を読んだ。

「満月。時間の流れに会わせて光量・熱量を調節」

「これって、俺達が毎日見てるあの、塔の上にある光ってる球でしょ」

 シノの言葉に頷いて、アヤは指を少し下にずらす。球体の内部に当たる場所を指し、そこに書かれている文字を読む。

「統率室。玉座」

「ぎ? ぎょ?」

 シノがアヤの言葉に首を傾げた。すかさずアヤが説明する。

「ぎょくざ。王の専用の椅子を意味する言葉だと言われてる」

「じゃ、ここに王様がいたのかな?」

 ユキが言う。アヤは少し困ったような顔をした。

「いや、ここにもう一つ文字があるんだが、王と、女性を意味する言葉なんだ」

 そこまで言うと、アヤはジウの方を見て言った。

「アンタ、昨日言ってたろ。あの塔には今もお姫様とカラスがいるんじゃないかって」

「ん? お、おう」

 ジウは、昨日、夢中で話してしまったのを思い出して少しバツが悪くなった。

「お姫様ってのは、王の娘を意味する言葉だと言われてるんだ。この、王と女性を意味する言葉は、お姫様のことなんじゃないかと俺は思ってる」

 それは、つまり――。

「つまり、あの塔のてっぺんには、本当にお姫様とくろいとりがいるってこと?」

 ユキが目を丸くした。ジウは、塔のあの球体の中で、仲良く暮らすお姫様とカラスを想像してみた。絵本の絵しか思い浮かばず、その光景が現実にあるとは、とても思えなかった。

 二人は幸せなんだろうか。

 ふとそんなことを思った。

「いや、さすがに今はもういないだろうし、絵本をそのまま鵜呑みにするのもおかしいだろ。鳥は話さない」

「でも、じゃあ、あの絵本は実話ってこともある?」

「それなんだが」

 ユキの質問に、アヤは難しい顔をした。どう説明すべきか考えているようだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る