揺れる鳥籠

思案

 結局、一ヵ所に留まるより、戒厳時刻に屋外に出る方が危険だろうと判断し、ジウたちはそのままシノの家で休んだ。

 ジウは、状況が状況なだけに、充分には休めないだろうと思ったが、横になった途端、ぐっすりと眠り込んでしまった。

 疲れていたのかもしれない。

 翌日の目覚めは、今までで一番と言っていいほどすっきりしていた。

 食事は、パンを少しずつと、昨夜と同じ飲み物に、庭先にある薬草でシノが作ったスープだった。

 ジウは、自宅の食事よりずっとおいしく感じた。

 食事の後、アヤは本を食卓の中央に広げ、改めて三人に説明を始めた。

「まず、今まで話したことを整理するぞ」

 三人はそれぞれ頷いた。

「この本は『王歴』と呼ばれる時代と『閉鎖歴』と呼ばれる時代の、ちょうど切り替わりの年に書かれたもので、恐らく千年以上前のものである。今はもう存在しない『魔法』が施されていたものである。『カゴミヤ計画』という計画の記録で、書いたのは恐らく計画の立案者であるジウのご先祖だ」

 アヤはそこでジウを見た。ジウはごくりと生唾を飲んだ。

「で、『カゴミヤ計画』についてだが、正直、どういう計画で、何が実施されたのか、細かいことは俺にも解らない」

 アヤは少し悔しそうな顔をした。

 昨日の放課後、学院の屋上で開いた、最初の頁を開く。

「昨日読んだこの文。『王歴千七十八年。赤の月十二の日。戦況の深刻な悪化が予想される為、カゴミヤ計画を発動可能状態まで進めることを、王に進言する』というものだが、俺が気になってるのは『戦況の深刻な悪化』という部分だ」

「せんきょう?」

 聞き慣れない言葉だ。ユキが、うーんと唸りながらアヤに聞いた。

「戦況って、球技とかの競技試合の、勝ち負けの状況みたいなことを、難しく言った言葉じゃなかった?」

 アヤはこくりと頷いた。

「ああ。よく知ってるな。さすがユキだ。けど、高々球技の試合の為の計画にしては、規模が大きすぎる」

「じゃあ何なんだ?」

 ジウが言うと、アヤはジウの方に振り向いた。

「何か、大きな争いごとのことなんじゃないかと思う。それを、街全体改造したり、権力の頂上である王に伺いを立てなければならないほど重要な――街の存続に関わるような大きな争いごとの……」

「大きな、争い?」

「何と何が争ったのかな?」

 シノとユキがほぼ同時に呟いた。アヤは首を振って「解らない」と答えた。

「解らないけれど、とにかく事態を一転させる為の秘策だったんだろうってことは、何となく解るんだ。それに、この『カゴミヤ計画終了の時であると、強く願う』とか、他にもところどころあるんだが、とにかくこれを書いた人物は、カゴミヤ計画を、良くは思ってない感じなんだよな」

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