内緒話2

「これ、アンタの家にあったのか?」

 アヤは、ジウの目をまっすぐに見て問いかけてきた。真剣な顔だった。ジウはどきりとした。アヤがこんな風に自分を見るなど、今までなかったのだ。

「あ、ああ。俺ん家の書庫にあった」

「俺を騙して、バカにしようとしてるワケじゃないよな?」

「ないって。んなことしねーよ」

 言いながら、ジウは日頃の行いを少し反省した。

「ここに、アンタの家に封印すると書いてある。アンタの家の人間が望む時が来たら、再び開かれるようなことも書かれてる」

「スゲーな。ホントに読めんのか、アヤ君」

 ジウは、アヤがあんまりあっさり読んで見せたので驚いた。だが、アヤはそんなことはおかまいなしに聞いてきた。

「これ、フツーにあったのか? 本棚に」

「何でよ」

 ジウは内心ドキリとしながら、平静を装って答えた。アヤの目が何もかも見透かしているようで、妙に緊張した。

「アンタに話して解るかどうか」

 アヤは真剣な顔でさらりと失礼なことを言いながら、何やら考え込んでいる様子だった。

 ページをパラパラとめくっていく。一項目は指でなぞるようにしながら、しっかりと読み、次からは、読むと言うより見ているだけのような速度で進んでいく。

 後半の図がたくさん載っているページに至って、ピタリと手を止めた。

 アヤの表情はどんどん険しくなっていく。

 時折、困ったような顔をする。

 一体何が書かれているのが、ジウは気になって、気になって、イライラしたが、アヤの真剣さが伝わってきたので口を出せずにいた。

「これ、アンタ……」

 アヤが困ったような、怒ったような顔をしてジウを見た。

「これ……」

 もう一度そう言って俯き、何かを考え込んで、そして意を決したように言った。

「これ、俺に貸してくれ」

「あ? 貸す?」

 ジウはうっかり普段通りの声を出してしまった。静まり返っていた図書室で、数人しかいない学徒達がいっせいに攻撃的な視線を向けてきた。

 ジウは慌てて手で口を塞ぎ、首をすくめた。

 他の学徒達が目線を戻したのを確認し、アヤに向き直って小声で話す。

「貸すって何でよ。何て書いてるのか教えてくれよ」

 ジウは、何となくアヤに見せれば、その場でこの本が何なのかの謎が解けると思っていたのだ。

「そのために貸してくれって言ってるんだ。俺だってこの本全部、この場で簡単に読めるワケねーだろ」

 アヤはそう言って、拗ねたような顔をした。少し悔しそうだ。

「どのくらいかかんの?」

「解らない。とりあえず、放課後まで読めた限りで、どのくらいかかりそうか判断する。どうだ?」

「解った」

 ジウはアヤの言うことは最もだと思い、本を預けて席を立った。

 入り口で振り向いてみたが、そこからはアヤのいる一番奥の自習机は見えなかった。

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