アヤのいない教室

 教室へ行くと、もうたくさんの学徒達が登校してきていた。

 いつもより早く現れたジウの姿に、何事かと思う者もいるようで「おはよう。どうした、こんなに早く」と声をかけてきた。「ちょっとな」と軽く笑ってかわすと、ペラペラになった鞄を自分の席に放って、ユキの席に向かう。

 シノはいつもギリギリに来るので、今日もまだ来ていないようだ。

「やあ、おはよう。早いね。なにか悪いことでも起きそうだ」

 ユキは爽やかに微笑むと、とびきり失礼なことをさらりと言った。

「失礼なヤツだな。アヤに用があったんだよ」

「アヤに?」

 ユキはキョロキョロと教室の中を見渡した。当然、まだ図書室にいるのだろうアヤの姿は見当たらない。

「図書室?」

 ユキはあっさりとアヤの居場所を言い当てた。やはり、誰から見てもアヤは本の虫である。

 そのまま他愛もない話をしていると、シノが駆け込んできた。自分の席に着くと、慌ただしくガチャガチャと音を立てて筆記用具を取り出している。

 予鈴が鳴ったので、ジウは自分の席に着いた。

 本鈴が鳴っても、アヤは教室に来なかった。


 給食の時間になっても、アヤは教室に姿を見せなかった。

 学院では学徒達に食事が提供される。さほど種類があるわけでもなく、質素だが、食事目当てで通っているような者もいる。

 アヤは休んでいる扱いになっているので、アヤの分は片付けられそうになったが、シノが配膳係の生徒を言いくるめて、貰ってきていた。

 午前中にジウがアヤに本を渡したことを話したので、シノはアヤがまだ校内にいるはずだと察してもアヤの分を確保したのだ。

 アヤは夢中になると、食事や休憩を取ることを忘れてしまうクセがあるから心配だと、シノはいつも言っている。

 互いに家族を亡くしているシノとアヤは、兄弟のように助け合って生きてきた。平民たちにはよくあることだ。

 給食休みの時間の間に、ジウ達はアヤを探してみたが、こっそり覗いた図書室にも見当たらなかったし、屋上にもいなかった。


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