託された願いの本

暗闇の雛鳥

 戒厳時刻が過ぎた。

 街はすっかり暗闇に覆われている。

 家の灯りがポツリポツリと灯っているのだろう。

 自分には、見えやしないが。

 冷たい、すっかり慣れてしまった感触に浸りながら、少しだけ子供の頃を思い出した。

 硝子森の近くで、友達と駆け回って遊んだ。

 どうしてこんな気分になったのか。

 こんなことを考えてなど、いられないのに。

 ふと、肩に誰かが触れた。

 いつもの守護者だ。自分の世話をしてくれている数人のうちの一人。手の感触だけで解るほど、慣れた手のひらだ。

 手をひいて、ベッドへと連れて行かれる。

 休めということだろう。

 すとんと、柔らかなベッドに座る。

「ありがとう」

 声に出してみた。

 しかし、自分に解るような変化はなく、守護者はいつものように部屋を出ていった。

 もう何年もこんなことを繰り返している。

 もう何年経ったのだろう。

 本当に久しぶりに、どうしてこんなことになったのかと、少女は思った。


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