無能力という名の最強能力

@masamasa1995

第1章 最強の誕生

21××年、有名科学者が人間は生まれ持って魔水晶というものを、体内に宿していると説いた。その説を元に眠った能力を開放させる薬を開発し、政府はより経済を発展させる目的で、国民にその薬を投与することを義務付けた。

 それから100年後、国民のライフラインとして、この固有の能力は必要不可欠なものとなっていた。

もちろん能力にも様々なものもある。日常生活のサポートとなる能力や、何もない所に新たなものを作り出す能力、そしてもちろん戦闘向きの能力も存在する。

つまり、自分がどの能力を発現するかによって人生が決まってしまう、そんな世の中になっていた。

そんな中、某地方病院の受付にて、幾多の修羅場を潜り抜けてきたことがわかるオーラを放ち、そのオーラとは真逆にスラッとした身体つきをしている男が受付を行っている。


「沖田清十郎?!あんた、まさかあの10年前の国の反乱を収めた英雄・・・」一人の看護師が眼を見開き固まっている。


「ああそうだ、だがわざわざこんな遠い地方病院へ来たんだ。理由は察してくれ。」


その看護師は大きく唾をのみ込んだ後、理由を察したのか、普段と同じ対応を取った。


「では、奥の部屋で先生がお待ちしていますので、どうぞお入りください。」


「あぁ。すまない。」


それから三か月の時が経ち、一人の男の子が誕生した。

その生まれてきた男の子は全く泣いていなかった。既に自分の意志を持っている。そんな表情をしていた。

そしてなぜか、妻の表情にも笑顔は見えなかった。


「まさか、俺にも赤ん坊を抱きかかえる時がくるとはな。」


そう言いながら赤ん坊を抱きかかえた。すると今まで、赤ん坊を抱きかかえた事はなかったが、何か違和感を感じていた。


「明美、赤ん坊というのは、こんなに硬くて重いものなのか?」


妻に疑問を投げつけた。

妻は、下を向き小さな声で答えた。


「こんなのありえない、普通じゃないわ。」


そう妻がボヤいた後、扉をノックする音と同時に担当医が部屋の中に入ってきた。その担当医の表情は険しいもので、その担当医の第一声でその部屋の人達は、言葉を失った。


「沖田さん。大変信じられない話ですが、先ほど検査したところ、この子は魔水晶を体内に宿してないのです。」


この一言にみんなが言葉を失うのも無理はない。なぜなら薬の投与を義務付けてから今まで一度も、魔水晶を宿していない人などいなかったからだ。

このことが世間に知れ渡ってしまったら、この子に人権はあるのだろうか。そんな不安が頭の中でいっぱいになっている。

そんな中、担当医が話を続ける。


「沖田さん。こんな状況で大変言いづらいのですが、基本子供が生まれたらこれから薬を投与して、政府名簿に名前と能力を登録しなければなりません。どういたしましょうか。」


政府名簿の能力欄に無能力と登録するわけにはいかない。かと言って、政府名簿に登録しなければ、教育はまず受けれなくなるだろう。この子には幸せになってもらいたい。そんなことを考えていると、あることを思いつく。


(待てよ。確かこの子は常人よりも皮膚が硬くて重かったな)


「決めました。この子を政府名簿に登録してください。能力は身体強化でお願いします。」


「いいんですか?一度登録したら取り消せませんよ?もしお子さんがその能力に沿わない事になれば、嘘であるとばれてしまいます。」

そう担当医に強くいわれたが、それはごもっともな話だ。第一これは賭けでしかない。私が考えている通りなら、この子は身体強化に見合ったものになるかもしれない。だが、そうならなかった場合は絶望的だ。担当医が強く念を押すのも無理はない。


「大丈夫です。私がこの子を鍛え上げますので。」


その一言を聞いて、私が英雄であることを思い出したのか、ため息と共に笑みを浮かべている。


「わかりました。あなたならそれも可能かもしれませんね。では、登録用紙を持ってきますので、しばらくお待ちください。」


そう言って、担当医の人がその場にいた看護師に登録用紙をもってくるように指示をしていた。

そして看護師が戻ってくる間に、担当医は魔水晶を体内に宿していないことから考えられる可能性を話した。


「沖田さんに一つ伝えておきたいことがあります。」


「なんだ?」


「可能性の一つですが、本来人間は必ず魔水晶を宿しています。それで、その魔水晶は生まれてくるときに人間の体内エネルギーのほとんどを養分として持っていきます。」


今の話でわかったことがある。この異常なほどの皮膚の硬さ、そしてこの重さ。本来魔水晶に吸い取られてしまうエネルギーが体全体に行き渡っているとしたら説明がつく。

そして担当医は話をつづけた。


「説が発表されてから、もちろん動物にも魔水晶が宿っているのかを確認していました。結論から言うと、動物にも宿っていました。しかし人間のものよりも規模が小さいのです。それも身体機能が高い動物ほど。」


つまり、こういうことだろう。魔水晶の規模が小さいという事は、養分となるエネルギーの量も少ないという事。余ったエネルギーは恐らく、他の身体機能に分配されているのだろう。


「しかし、身体能力がトップクラスの動物でも80%以上のエネルギーは魔水晶に吸収されている。先ほども言った通りこれはあくまでも可能性の一つが、この子は育て方次第では・・・」


担当医がその続きを言おうとした瞬間に、ノックの音がした。先ほどの看護師が登録用紙を持ってきたのだろう。しかしさっきの話の続き、聞かなくても想像はつく。


「先生、お持ちしました。」


「あぁ。ありがとう。」


「では、沖田さん。能力と名前をここに書いてください。」

高級な和紙に能力記述欄と名前記述欄の二つしかない、こんな高級な紙に合わない内容だ。


「あぁ、分かった。」


そういえば、名前をまだ考えてなかったな、この子には能力がなくても自分の道を歩いて行ってほしい。

そして書いたものを担当医に渡した。


「正道(まさと)ですか。この子にふさわしい良い名前ですね。私が責任をもって政府に提出しておきます。」


そう言って、看護師に紙を託した。


「では私たちはこれで失礼します」


そう言って病院をあとにした。


場所は変わり、山奥の中にひっそりと佇む1階建ての木造建築、そこは山奥とはいったものの、あまりに静かで鳥一匹の鳴き声すら聞こえない。しかしそれはこの半径200mほどの一帯だけで、それを超えたとこからは、獰猛な獣であろう気配を無数に感じる。


「さてと、正道。お前には学校に通うまでの15年間で力を身に付けてもらう。とはいってもまだ何を言ってるかもわからない状況か。」


最初はまず言語能力の方を身に付けないとだめだな。


「明美、そっちの方は任せても大丈夫か?」


「そうね、あなたは戦いに関すること以外は全然ですもんね。」


妻は、笑みを浮かべながら言った。


「あぁ。すまない。」


「えぇ。この子のためなら喜んでやるわ。」


それから3年の月日が経ち、場所は家から少し離れた訓練場。ここ何年も使用していないが、この時のために掃除をしておいた。その証拠に訓練場の外と比べて不自然なほどにさっぱりしている。

 その部屋の中にはどこでこんなものを見つけたのかと思うぐらいの大木が一本立っているだけ、その大木の中心には何度も拳をついた跡がある。


「パパ、今から何をするの?」


今から何をするのかはまだ伝えていないが、正道の表情は好奇心であふれているのがすぐにわかるほどに目が輝いている。


「今日から毎日この大木をヒビが入るまで素手で突いてもらう。ヒビが入れば終わりだ。パンチの仕方は今から教える。」


そうして、基本的なパンチの仕方は教えた。この子には目標としては、3歳という年齢も考慮して1年以内にはヒビをいれてほしいところだ。


「じゃあ、夜までには戻るから」


「うん!」


そう一言いい残し訓練場を出た。

そして、夕日が沈みかけた頃、遠く離れた町への買い物を終え、家に戻り今日の練習は終わりだと伝えに行くために、訓練場へと向かう。

もう目の前に訓練場があるというところまで来たが、何か様子がおかしい。正道はまだ訓練をしているはず、しかしやけに静かだ。私は、もしかしたら、という状況に足どりが重くなっていた。そして道場の入り口に着くと、小さな足だけが外から見えていた。


「正道!」


私は思わず叫び、視野が急に狭く周りが何も見えなくなるくらい焦り、走り出した。


そして、入り口に到着し、恐る恐る中へ入ると、子宮の中にいる赤ちゃんのように体をまるめて気持ちよさそうに寝ていた。


「なんだ、寝てただけか。まあ初日だし仕方ないな。」


私は、その姿をみてそんな言葉を漏らし、肩の力がぬけ、壁に背中をつけながら、そのまま背中を擦るように座り込んだ。

 そして、目線は自然と道場の中心へと向いた。その時、何一つ予想もしなかった光景に思わず目を見開けた。

 本来そこにあったはずの一本の巨大な大木が、きれいに半分に割れている。

まだ理解が追い付いていない。

 私はヒビを入れれるようになるには1年はかかると思っていた。実際1年たてばヒビを入れれる予定だった。いや、最悪もう少しかかっても良いとすら思ってた。

 だがなんだこれは。二つに割った? しかも一日で? ありえない。

こんな事奇跡、偶然という言葉では説明できない。

 私はその真相を知るために、すぐに正道の身体を揺さぶった。


「おい、正道起きろ。」


正道は手で目を擦りながら身体を起こした。


「なぁに、パパ」


「正道、お前あの大木はどうした。」


「あぁ、あれはパパが出かけてからすぐに割れちゃったよ。」


「すぐ?回数で言うと何回くらいか覚えてるか?」


「うーん、2回だよ。」


私は言葉を失った。2回?本人は、その事について何もわかっていないだろうが、この大木を2回で、しかも二つに割るなんて、軍の者でもできるものは一握りだろう。

私は確信した。育て方次第で軍事兵器になると。

そして私は決めた。正しい心を持った最強の戦士に育てることを。


 それから12年の時が経った。

薄い紫がかった霧に覆われている森の中、5mはするであろうクマが横になって倒れている。そのそばには、正道の姿がある。父、清十郎に似てスラっとした身体に合わない強いオーラを感じる。


「はぁ、今日から街に出るのかー。ここで遊ぶのも楽しいんだけどなー」


そう言いながら家へと向かう。


家に着くなり、正道は玄関に置いた荷物をもって街に出ようとする。


「父さん、母さん、行ってきます。」


その声に反応したのか、父が呼び止めた。


「正道。待つんだ。」


その言葉に、正道は首だけ振り返ってこちらを見た。


「良いか? 自分ではあまりわからないだろうが、お前はお前が思っているよりも強い、街に出ても決して本気は出すんじゃない。あと私が父であるということも言わないでほしい。パニックになってしまうからな。」


「あぁ。わかってるよ! 母さんも父さんも元気で!」


それだけを言い残し、正道は家を後にした。


「正道!自分の道を貫け!」


つい、らしくない大きな声で叫んだ。正道は振り向かず片手をあげて、横に振りながら、森の中へと消えていった。




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