第五章「開かれしは堕天の門」

第四十三話「終わりゆく日常」



 ガチャリと音を立てて扉が開かれる。


 スイッチを切り替えていこう。今日は楽しいゲーム部の二次会なのだから。


「おぉ、来たか」


 エプロン姿でアキラが出迎えてくれた。

 着替えるのが面倒臭かったのか下はまだ制服だ。匂いが付くんじゃないかな? 大丈夫かな?

 まぁ、それはともかく。

 何やら香ばしい良い匂いがする。

 これはきっと肉系に違いない。

 そして今さら気付く。


「あ、ごめん。何も持ってきてないや……」


 ある意味パーティなのに何も持参しなかった自分を恥じる。


「なら後で買出しにでも行ってくれ。飲み物が足らなくなる可能性がある」

「オッケー」


 そんな風に会話をしていると。


「おっすおっす」


 制服姿のままでタケシがやってきた。


「手土産だ……好きにやってくれ」


 ドサッ、というかゴトリッと、筋トレ用の重りの如く置かれた重そうなコンビニ袋の中には――。


 大量のジュースやらお茶やら2リットル近いペットボトルの飲み物が六本。

 片手に三本づつで……六キロ……?

 袋が破けないようにコンビニ袋的なものは二重になっている。


 こやつ、筋トレついでに持って来たなっ!?


「なっさんのリンゴ味がおススメだぜ?」

「うん、なっさんは美味しいよね」


 リンゴ味ぶどう味オレンジ味の三種そろえてくれてる所がタケシらしい。


 で、僕はというと……。


「飲み物そろっちゃったから、お菓子系でも買ってくるね」

「あぁ」

「行ってら~」


 アキラ家を後にするのだった。



 団地での長話は終わってくれていたようで、特に不快な目にも合わずに購入完了。

 やっぱヅャコスは品揃えが良い。

 ちなみにヅャコスというのは名称的にも商標登録的にも怪しいネーミングセンスな、ここら地域のみに存在するらしい小規模チェーン店らしき謎の大型マーケットだ。

 団地のすぐ近くにあるんだよね。たぶんタケシもそこで買ってきたのだろう。



「ただいま~」


 アキラ家に帰還する。


 すると――。


「ドンターッチミー。ドンターッチミー」


 扉の近くでタケシがまたなんか奇行を行っていた。

 もしかして、待っててくれたのだろうか。


「ドンターッチミー。ドンターッチミー」


 機械的な動きをしながら、特徴的な言い回しで繰り返すタケシ。


 この間はルックミーで、見たら怒られた。

 今回は触るな……だから?


 ずっとそこにいられても邪魔で入れないし……、


――触ればいいのかな?


 シャツも制服もボタンを締めず、むしろさらけ出しているため、ガッツリとセクシーな割れた腹筋が見えるタケシの腹部。

 ペタっと触れてみる。


「ン~~ッ!」


 もの凄い形相でクロスチョップをペチッとかまされる。


「何なの……?」


 相変わらず理不尽で意味不明だ。

 そして、それこそがタケシギャグなのである。



「おかえり~」


 奥を見てみると、麻耶嬢とリョウがすでに来ていた。


 二人とも制服姿だ。


「着替えなかったの?」

「まぁ、色々あって」

「ボクも……」

「お? 忘れてた」

「作り終えたら着替えるつもりだったのだがな……着替えそびれた」


 こうして、僕ら五人。制服姿のままという形でのパーティが確定するのだった。


「ドンターッチミー。ドンターッチミー」


 それはともかくとして、ウネウネと奇妙なロボチックな動きでアキラに近づくタケシ。


「……触らなければいいんだろう?」


 待っても動かない、というか料理の邪魔だと言いたげな目で睨まれるだけなためか、タケシはターゲットを変更しはじめる。


「ドンターッチミー。ドンターッチミー」

「なに~?」


 ペタリと胸板に触れるリョウ。


「ン~ッ」


 容赦なく軽めのクロスチョップもどきを食らわされる。


「何なのさ~っ!?」


 続いて麻耶嬢の下へとにじり寄るタケシ。


「ドンターッチミー。ドンターッチミー」

「え? はなから触りたくないし」

「キシャーッ」


 リョウの威嚇にションボリしながら戻ってくる。

 放置してた飲み物を冷蔵庫にしまうタケシの姿がそこにあるのだった。


 なんだったんだろうね。この奇行。


 で、近づいて麻耶嬢とリョウを見てみると……?


 その手にはなんと、コンビニ袋的なものが。

 買って来たものにまさかのネタかぶりが無いか、中身を精査してみる事に。


「ボク達が買ってきたのは~」

「まずは、これよ」


 亀甲男キッコーメンの豆乳飲料紅茶。まさかの1リットルパック。


「私が今はまってるの。文句ある?」

「いや、特に文句は無いな」

「うん、美味しいよね。それ」

「俺も好きだぜ」


 タケシもはまっているらしい。


 色んな味がある奴だよね、その豆乳飲料。中でも紅茶バージョンは様々なバリエーションの中でもハズレの無さゆえにリットルパック化している奴だ。


「やるじゃないっ」


 北斗の○に出てくるア○ンのような笑みを浮かべて称えるタケシ。ほんとリアクション芸人だよなぁ。


「次は……これで、どうだ~っ」


 そして袋から出されたのは、ミニチョコレート風菓子の傑作。十二個入りミニシル○ーヌだ。


「それはッ!? お高そうな良い感じの美味しそうな奴ッ!!」


 タケシが一人、謎の盛り上がりを見せている。


「実際に美味しい奴だね」

「うむ、ここまで来てハズレ無しだな」

「最後は、これだーっ」


 次いで出されたのは、しっとりクッキーで有名なカントリーマ○ムの濃香なバニラ味の奴っ。


「やるな」

「うん、間違いなく美味しい奴だね」

「これもハズレのないチョイース! グッッチョーイス!!」


 両手でオッケーマークを出してはしゃぐタケシ。

 相変わらずリアクションが大きい。


「さあどうだ。ボクらのチョイスに勝てるかな?」


 確かに、これはハズレのない見事なチョイスだ。


 だがしかし――。


「ならば、僕のはこれだ――」

「そ、それはっ」

「まさかっ」


――○ルボンオリジナルアソート。


「……ざわっ……ざわっ」


 タケシが若干角ばりそうな雰囲気で一人ざわざわしている。

 たぶんネタわかってるのはアキラとタケシくらいだろうな……。


 ルー○ラ、ルマ○ド、エリー○、バーム□ール、ホワイト□リータ、チョコリエー○、これら主戦力が全てそろった、いわばスーパーブル○ン大戦、夢の主役チーム!


「これはッ……ハンチョ○で禁断のチョイスと言われたッ……オリジナルアソート……ッ」

「あとこれね」

「まさかの、ちょこあ~ん○ん!?」

「やはり来たか」


 オタク的チョイスってこうだよね。

 流行ってたらチョココロネでもたいやきで買っちゃう的な。うぐぅ。


「完全に某漫画のパロディ路線で来たな」

「はずれも無いかな~って」

「私ネタ知らない」

「ボクも」

「ぐ~にゃ~……ぐわわわ~……ボロッ……ボロッ……ネタ元の漫画がマイナーだというのかッ……? 馬鹿なッ」

「あぁ、後みんな甘いお菓子ばっか買って来るかと思って、これも」


 ピッツァポティトとプリング○スのサワークリームオニオンでポテチも完備。


 これでパーリィナイトも問題無しっ。


「こっちも出来てるぞ」


 アキラ特性ホイコーローと、ミートボールだらけのスパゲッティナポリタン大盛りが登場する。


「そのパスタは……!」

「ル○ンに出てくるアレだーっ!」


 目をキラキラ輝かせるリョウ。


「……勝者! アキラ!」


 勝手にジャッジしだすタケシ。

 まぁ、確かにね。


「く……手作りには勝てなかったか~」

「パロディ縛りなんて聞いてないんだけど」

「まぁ、結局ね。僕らの趣味な訳だしね」


 そんなこんなで、パーティの準備は整った。

 後は――。


「遅いな」

「なんか、ちょっと用事が出来て少し遅れるとは聞いてるけど」


 同時にメールが鳴る。

 確認してみると、トールからだ。


「なんか、野暮用でもうちょっと遅れるってさ」


「そう、それじゃあちょっと、適当に遊んで待ってましょうか……!」


 鞄からデッキを取り出し、決闘者デュエリストの目になる麻耶嬢。


「我が深淵のデッキに恐怖するがいい」


 デッキを手に、我が部一の魔術師ウィザードの貫禄を見せるアキラ。


「今日こそ、俺が四天王最弱じゃねぇこと、証明してやるぜ!」


 情けない言葉を吐き出し、負けフラグを匂わせまくるタケシ。


 こうして、闇のカードバトルっぽい何かが始まるのだった。



 夜はまだこれから。



――楽しい宴が始まる。



 あとはトールを待つだけだ――。



 こうして、僕らは普通の、楽しい日常を過ごしていた。


 お互いの心に秘めた闇、悩みなんて知りもしないで。




 ゆえに悲劇は起きる訳だけど、そんな事、今の僕たちにはわかりようはずもない訳で――。


 それは運命のように、僕たちは悲劇的結末へと……誘われるように、落ちるように、確実に、向かっていくのだった。


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