第十五話「天上の遊戯2」
「……という訳で、キャラ紹介をはじめてくれ」
キャラメイク開始から約三十分後。ゲンナリした表情でアキラが宣言する。
原因はと言えば……。
目の前の席に座る男、というか、奴の作り出したキャラのせいな訳だが。
タケシのキャラクターシートには、そのゴツイ筋肉質な二の腕から生み出されたとは到底思えない程の……。
とても繊細なタッチで描かれた可愛らしいウサ耳系ロリっ娘キャラのイラストがあるのだった。
「おっはみょーん☆ みぃの名前はリルル・ミラルル。ピチピチの14歳! 好きな物は血沸き肉踊る大冒険だよーん♪」
当然、僕達の耳にはタケシの野太い豪快雄ボイスで聞こえている訳だが、脳内(TRPGの)世界では「くぎ○ゅ~~~!!」の声で再生希望らしい。
ちなみに、このTRPGというゲーム、恐ろしい事に、男性が男性キャラ、女性が女性キャラを使わなければならないルールなど“ない”。
場合によっては、このTRPG業界、男性人口の方が圧倒的に多い現状であるにも関わらず、おぞましき事に、女性キャラしか使用してはならないというゲームさえあったりするくらいだ。
だから、タケシのこの奇行は別段おかしいことなどではなく、むしろ、各地のコンベンション(不特定多数で集ってTRPGを遊ぶ場)などでは、普通にありふれた現象だったりする。するのだが……!
……うん、別にね。個人の趣味だしね。悪いことではないと思うんだよ。けどね。できればね。なんていうかね。オンラインセッションの(ボイスセッションを除く)テキストセッションとかだけでやってくれないかなぁって。思ったりすることもあるんだよね。うんわかってる。余計なお世話だってのも、そういう事を言うのもモラル違反だってのはわかってるんだけどさ。けどさ、でもさ、っていうかさ。むしろ誰か禁止するルールを作ってくれよ! と願った事のあるTRPGプレイヤーは意外とそれなりの数に及ぶと思うんだ。僕が今まさにその一人だから……。
「ふ、イケメンなんざ
PC欄に書き込まれた萌えキャラ的イラストに一人萌え萌えするタケシ。
……もはや何も言うまい。
「……まぁ、それについては今さらだからどうでも良い事なのだが、本当にスキル構成はそれで良いんだな?」
「
……なぜ謎の外国語?
まぁ、それはさておき、タケシのキャラクターシートに書かれたスキル欄。つまり、特殊能力を書く項目には以下の三つが書かれていた。
美声、カリスマ、超絶美形。
全部魅力のランクを上げる
そして、タケシの選んだキャラクター種族、兎半獣人族の種族特徴は魅力ランクの更なる上昇。
これを合計すると……。
『魅力:Sランク』
「……」
「本気か……?」
「おうよ、やっぱヒロインは美少女じゃなきゃな!」
「国でも傾けるつもりか……」
ちなみに、先にも延べたとおり、このゲームにおけるSランクというのは、その分野における最高ランクを意味する。
Dで劣っている。Cで普通。Bで優れている。Aで天才が努力の果てに至れるレベル。つまりはトップクラス。
ならばSランクとはどのようなレベルかと言えば……通称、人外。または神の領域。
人の身では到底至れない、天賦の才を持つ者が並々ならぬ命がけの努力を行った末に、奇跡ともいえる確率でのみ至れる境地。
筋力や敏捷性、知力など、基本的な能力値においては、世界脅威度Cランクでは潜在力が足らなくてとても取れない。
どれだけの犠牲や弱点、誓約と制約による工夫をもってしても不可能なようにできている。
けど、比較的あまり役に立たない魅力のみ、例外的に他を犠牲にしまくれば取れなくも無いようにはなっている。
なってはいるのだが……。
当然、それを取ってしまえば、他のあらゆるスキルが一切取得できなくなりかねないくらいに、お高い。
某『狩人×狩人』の変態道化師さんならきっとこう言うことだろう。
『容量の無駄使い』と。
「物理アタッカー希望で間違いないのだな?」
能力
「おうよ! もちろん
ぶっちゃけ、両方ともに威力は少なめ。アタッカーとしては心もとない。
「……まぁ、見てくれだけの剣でなく、ちゃんと安定性を重視した鈍器を選んだ点は評価する。そして万が一に備えて射撃武器を用意したのも評価しよう……だが、しかしだな……」
「戦闘スキル……これだけ?」
横から覗いた麻耶嬢からもゲンナリとした非難の声があがる。
タケシのキャラクターシートの戦闘スキル欄には、こう書かれていた。
『流派:戦兎舞神流1レベル』
『流派:幸運寺養体拳1レベル』
『ジェノサイドカーニバル』
『カーネイジフェスティバル』
『ダイナミックエントリー』
『サプライズパーティ』
「オリジナルの我流流派二つで奥義が4つ。効果は暗殺、殲滅、奇襲、必中か」
説明しよう。
このゲーム、奥義と言う形で精神力を消費して使用できる必殺技が取れる。
流派1レベルにつき二つの奥義が習得でき、2レベル以降は若干習得のための必要潜在力が高まっていく。
世界脅威度Cランクの初期キャラクターは二個まで流派を習得していてもよいルール。
なので、この取り方は、効率の良い頭の良い取り方というか、若干卑怯な取り方とも言える。
魅力Sランクなんて無茶やってるんだし、仕方ないと思うんだけどね。
で、奥義の内容について。
流派名と技名は自由に付けてもいいんだけど、効果はルールにある中から結局は選ぶ事になる。
暗殺は、モブ属性、つまりは敵の雑魚キャラクターに対してのみ、ダメージに関係なく即死効果が発生する。
そして殲滅は、物理攻撃や物理攻撃スキルの射程と効果範囲をシーン全体にする事ができる。
で、奇襲は行動力の高さに関係なく、その戦闘ラウンドで最も早く行動が行える。
必中は命中判定を省略し、自動的に絶対成功にできる。
全部、本来ならば1レベルでは取れない奥義なのだが、ルール上、取得必要潜在力が半分になるまで制限を付ける事で限定的に取得が許されている。
タケシが選んだ限定は1シナリオに1回まで使用可能。という一番重たいもの。
気分が乗った時にだけ、たまに成功する、未完成の奥義、といったイメージらしい。
つまり、シナリオ内の1戦闘のみ、最速で雑魚に“だけ”やたらめったら強くなれるという
「……」
……そう、ただそれだけの能力である……。
強いんだけどね?
うん、強いんだけどさぁ……。
「当てられない、かわせない」
「威力も低い上に……何これ!? 金属鎧着てないの!?」
「てへっ、高くて買えんかった」
「回避低いのに……アンタどうすんの……」
「……任せたぜ。リョウ……」
「え? ボクのカバーリングは麻耶ちゃんのためのスキルだよ?」
「あんた……物理アタッカー希望よね……?」
「おうよ」
「ボス戦以外はどうするつもり……?」
「そこは平目で、やぁってやるぜっ!」
「……」
ちなみに、平目って言うのは、ダイス、つまりサイコロの目だけで争う、という事だ。
さっき説明した通り、TRPGの行動は能力値とサイコロの出目で決定される。
正確には能力値とサイコロの出目の合計が上回っていた方が勝ち。
つまり、能力値が低くても、振ったサイコロの目が大きければなんとかなったりはする。
するのだが……。
「戦闘用の
「
「
当たらない上に、威力も微妙。回避もできなければタフでもない。
こいつ、何しに冒険者になったんだろう……。
「36分の1にでも期待するつもりか……?」
ちなみに、36分の1とは、判定における
このTRPGというゲーム。ゲームによって判定は変わるのだが。なんとクリティカルという、特定の条件下で、どんな判定でも成功させる事ができる、というルールが大抵はある。
今回のゲームでは、その条件は6ゾロ。つまり36回に1回の確率で超成功が発生するのだ。
ついでに攻撃の際はダメージも上昇するので、基本的にTRPGというゲームは、運が重要な要素となる。
人生と一緒だねっ。
もちろん、どんな事でもできるとは言え、ゲームマスター、つまりこのゲームを統括する係の人がその行動の判定を行う挑戦を認めなければならない。
100パーセント絶対確実に成功しえない行動であると認められた場合、判定さえさせてもらえない事もあるので、それほど理不尽なルールという訳でもない。
人生と一緒だねっ。
それはさておき、2つのサイコロを振って6が二つ出ると発動するクリティカル。
その発動確率たるや……さっき言った答えの通り、算数をまともに勉強してたならわかるよねっ。
そう、つまり、奇跡なんてそうそう思い通りに起こせる訳がない。
人生と一緒だねっ!
「……」
「
「
「せめて
「死ぬぞ?」
「美少女にそんなものはいらないっ」
「ボクはちゃんと全部取ったよー」
「涼きゅん偉ーい」
「わーい」
またバカップルがいちゃつきだしたし。
「せめて
「いやぁ、潜在力が足りなくて」
「足りないって……」
技能欄には交渉技能A+、性的魅了S、礼儀作法Bの文字。
……いらんだろ。
せめてそれ下げて白兵攻撃と回避技能をBに伸ばそう……C+でもいいからさ。
魅力Sランクの時点で、同性からさえも頻繁に交際を求められるレベルなだけでなく。
“異性ならば軽く触れただけで相手を幸福の絶頂へと至らせ即座に下僕へと落とせるレベル“なのに。
その上に性的魅了技能Sランク……?
性的技能で相手を殺す気かな?
これ、ダンゲ□スでもサタ〇ペでもねぇから!
……本当、YOUは何しに冒険に?
「死ぬ気か?」
アキラが冷や汗混じりに呟く。
「本当に、これで良いんだな……?」
「おうよ、
自信満々、格好良く決めてはいるけど……。
「……まぁ、安定感は無いけどボス戦の取り巻きだけは任せられそうだし、パーティ次第では何とかなる……のかな?」
「……そうね、次、行きましょ」
「そうだな」
「にひひ☆ みんな、よろしくなのだー♪」
ウサ耳キャラの書かれたシートをピラピラと見せつけながら、野太い声が響き渡った。
――みんながタケシを諦めた。
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