第十四話「天上の遊戯1」




 “夢”という言葉がある。


 寝て見るそれの事ではなく、自分の生涯において叶えたい“目標”。


 人はえてして“夢”に向けて日々邁進する。


 けど、世の中そんな凄い人達ばかりな訳じゃなくて……。


 どうしても落ちこぼれというか、やればできるのかもしれないけど、目標の定まらない人とか、いろいろいる訳で。


 そんな、何のとりえも無い普通の一般人にとって、時間というのは日々浪費されるだけの、何ていうか……空気みたいな物というか、惰性だけで生きるために食べ続けるさしておいしくもない食事というか、何とも還元できずに日々消費期限切れで廃棄されてゆくコストみたいなもの、としか感じられない訳で。


 そのコストの消費方法を求められたとしても“夢”を持っている人達みたいに、自己を高めるための目標も、それに適した行動も無い。


 そんな僕達にできる事といったら……。




 それは下らない。


 誰もが下らないと思うかもしれない。そんな時間の使い方。


 それをしたからといって、何かができるようになるわけでもない。


 何かの勉強になる訳でもない。


 ぶっちゃけ何の役にも立たない。



 人はそれを“遊び”という。



 それは盛大な時間の無駄遣い。

 時間というコストの豪遊とも言える、ある意味一番愚かな消費方法。


 本当に何の役にも立たないのだから、後になって後悔するのかもしれない。


 そんな愚かな時間の使い方だ。



 だけど、それでも僕たちにとっては……。




――天上の遊戯にも等しい、楽園の一時だったんだ。




「という訳で、今日はTRPGをしようと思う」


 ホワイトボードの前にてアキラが宣言する。


 ぶっちゃけみんな知ってた事だけど、新入生のトールがいるからね。

 説明しないとね。


「TRPG……」

「RPGは知っているか?」

「あぁ、ド○クエやF○みたいなゲームの事だな」

「そうだ、そ――」

「――それに近いものをゲーム機などを使わずに、アナログで行うテーブルゲームの事……だったか?」


 アキラの説明を遮って、トールが答えた。


「知っていたのか」

「……あぁ、妹の趣味だったようでな。よく人を集めて遊んでいたのを覚えている」

「い、妹となっ!?」


 相変わらずの駄目っぷりでタケシが“妹”という言語に心踊らされているようだが、無視してトールは続ける。


「過去に何度か誘われたのだが……あの頃は剣の道に忙しくてな」

「なら、大体の事は知ってるのか?」

「ヌコヌコのリプレイ風動画とやらをいくつか見せられた事がある」


 東方とかアイドルとかのアレだろうか……。


「まぁ、アレは余り参考にならん……と言う輩もいるが、身内でやる分にはあのノリで問題ない」

「だな。全力で来るがいい。俺が全てを受け止めてやるぜ!」


 タケシが力強い笑みを浮かべた所で、


「ウホッ……」


 麻耶嬢が脳内掛け算を始めるのだった。



 ちなみに、もっとわかりやすく説明すると。

 TRPGとは、サイコロと鉛筆、紙と想像力をもって遊ぶテーブルゲームである。


 異なる世界の異なる自分をシミュレートすることで、自分が主役の小説を生み出していくような、そんな感覚のゲーム。

 もちろんプレイヤーは全員が主人公なので、誰か一人だけがずっと目立ち続けるというのは忌むべき無作法とされている。

 みんなが主役で、みんなが盛り上がれる、そんな楽しい物語を紡いでいくのがTRPGの面白いところだ。


 演劇的に例えるならば、ゲーム的ルールを敷いたエチュードみたいなもの、とも言えるらしい。

 ちなみにエチュードというのは、演劇用語で、台本無しでアドリブのみで行われる即興芝居の事だ。


 サイコロと言うランダム性。能力値というゲーム性を持って行動の成否を決める。

 だから誰かがずっと無双し続ける事はできない。平等に全員が楽しめるように工面されている。


 そんな、ルールをもって行われる大人のごっこ遊び(断じて18禁的意味合いではない)とも言えるこのマイナーなゲームは、一部陽キャからは気持ち悪いオタクのするゲームと馬鹿にされてたりはするかもしれないけど、一部オタク界隈ではとても人気のあるゲームだったりする。



 そんなこんなで――。



「まずはキャラメイクね」


 TRPGは物語を作るゲームだ。そこに登場する人物。

 遊び手(プレイヤー)が自分の身代わりとなる、その世界における分身をまずは作らなければならない。


「今日は何やるのー?」

「初心者がいる以上、まずは公式のゲームをやりたい所なのだが、あいにく手持ちのシナリオネタがない。ので予定通りに『にゃぁぷす』をやる」

「世界観は?」

「オーソドックスに西洋風ファンタジーだ」

「主人公の世界脅威度は?」

「Cランクだ」


「……にゃぁぷす? 世界脅威度?」


 目の前ではオタク特有の、知らない人置いてけぼり状態の専門用語マシマシ会話が展開されていた。


「えっと、まずはね」


 という訳で僕が説明する事になる訳で。



 とある超有名TRPGがあった。それは海外製で、あらゆる世界観を遊べるゲームとして、汎用TRPGの名で売り出された。

 だが、それも今じゃ昔の話。最近のユーザーはほとんど知らない、知っていても名前を聞いたことがあるかどうか、といった所だ。

 そもそも中々売っていない。絶版状態なのである。しかも版上げもされないから新しくもならない訳で……やっぱり絶版なレアゲーなままとなる訳で……。

ネット上にフリーで上がっているという話も聞くが、僕はよくわかっていない。日本語翻訳版はネットに上がっているのだろうか?


 とまぁ、そんな結果の末に忘れ去られていく可能性のとても高い運命にあるゲーム。


 そんな超有名TRPGをモチーフに、様々な世界観を遊べる汎用TRPGの後継を目指して我が部の先輩達が作り出した同人ゲームが『にゃぁぷすTRPG~さぁどえでぃしよん~』だ。


 そもそも元となったゲームは凄い面白かったんだけど、海外ゲームなせいで難易度がデッドリー。HPが低すぎてめっちゃ死に安いという欠点があった。海外ゲーは大味なのが多いんだよね。


 それらを踏まえて、現代日本ユーザーの求めるであろう水準に合わせた改善と改良を繰り返してできあがったこのゲーム。

 ぶっちゃけ既存のTRPGのルールをいろいろごちゃまぜにした感じなんだけど、中々に奥が深い。


 ちなみに、世界脅威度というのは、その登場人物が世界に与えうる強さをランク付けしたもの。

 ゲームでわかりやすくいうならレベルみたいなものだ。


 Cランクは一般人に毛が生えた程度。といっても、その道で華々しい活躍を見込めるファンタジー世界の英雄候補といった感じ。


 大体普通のファンタジーTRPGで例えるなら2レベルから3レベル程度。主に冒険者の駆け出しとしてしばらく活動して慣れてきたレベルといった所だろう。

 もし現代世界の世界観に合わせるのであれば、格闘世界におけるプロレベルのメジャーな試合に出れる有名選手とかの強さが目安だ。K1とかで放映される選手8人に選ばれるくらいの実力者。まだ現実世界でギリギリありえるレベルの強者がこの段階。


 Bになると、その道のプロ。冒険者なら二つ名を持つちょっとした伝説の一つや二つならありそうな強さ。現代ならグラップラーな世界の地下格闘トーナメントに出場できるレベルの超格闘戦士級って所だろう。若干現実離れし始めてくる。


 B+で冒険者におけるマスターとか英雄クラス。または、毎度死亡が確認されているはずなのに謎の中国三千年の秘薬か何かで蘇る不可思議拳法を操る某超人学徒生クラスの達人とか。

 A以上になると世界を救う勇者とか超英雄クラス。手から波動を出すのは当たり前、小宇宙を燃やして亜音速で動き始めたり、山を消し飛ばせるレベル。願いを叶えるために宝具とか使って戦い出してもおかしくない人間を超えた何か級。


 もし最高のSSS+ランクをプレイするとなると、めちゃくちゃ強いレベルの○ーベルなスーパーヒーローとか、惑星を消し飛ばしたり超光速で動いたり指パッチンで世界改変とかが行えるレベル、またはそれらに対抗できるレベルの主人公、そんな世界観での物語が可能となる。


 ちなみにDランクは一般人レベル。クトゥ○フTRPGみたいなホラーゲーム向けだ。


 そしてこのゲームの魅力は、ビルドの自由度だ。

 100を超える特徴と、豊富な魔法、多種多様な技能、スキルを選んで、どんな世界観でも再現できるようになっている。


 弱点や制約と誓約によるペナルティで安い潜在力度で特技を習得できるようにすれば、Cランクといえど、一芸特化である場合に限り専門技術ではBランクにも引けを取らない実力を持つ、なんてビルドもできる。……もちろんその分、他がおざなりになって、弱点が多くて苦労する事になるけどね。


 そんな、先輩方が忙しいせいで版上げや改造、サプリ(追加データ集)も最近できてないようだけど、部内ではとてもベリーフェイバリットな熱いゲームなのだ!



「――って感じかな」


 といった風に、新人のトールにおおまかなルールを説明し終えた。



「ふむ、となるとこれは……Dが最も低いランクで、C、B、Aと上がっていき、Sが特別強いといった流れになる訳か」

「そんな感じ」


 能力値もそんな風になっているので、若干わかりづらいけど。

 とりあえずランクが強いほど実力が高いことを示していて、判定などで有利になるとか、そんな感じの事とかを説明した。



「さて、ではキャラメイクを開始しようか」



 アキラの宣言により、自身の影とも言える登場人物の作成が始まるのだった。


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