第三話「ありし日の日常2」
空は夕日に染まりかけ、鮮やかなオレンジの色合いへと変わりゆくこの時間。
多目的ルームは一時的に僕たちのものとなる。
私立黄星学園無電源ゲーム同好会。
毎週月水金、この広い教室へと集い、世間様から見るとやや怪しいオタクめいたマイナーゲームを行う集団。
それが僕たちだ。
ちなみに顧問はいない。
正確には、いるにはいるのだが、完全放置状態でまともに顔を出す事がない。
主な活動内容はカードゲームやボードゲーム。
他にはテーブルトークロールプレイングゲームなんていうドマイナーな遊びも扱う。
まぁ、某動画なんかで一部では有名になりはじめてるみたいで、そこそこ影では知名度の上がっている遊びではあるらしいんだけどね。
名前の通り、無電源。
電源を用いないゲームを主とする部活だ。
この私立黄星学園。生徒は必ずいずれかの部活動に所属していなければならないという、とても古臭いしきたりが未だに存在している。
そのため、体育会系も文科系もどちらも好ましくないと考えた過去のOB達が力づくで無理やり立ち上げたのがこの同好会であるらしい。そんな伝説が残されている。
多分、事実なんだろう。
最近では無電源ではないただのゲーム愛好会が設立してしまい、そこに部員を奪われてしまっている。
同好会とは言え、五人以上でなければ正式に活動を認められる事はない。
そんな中、名乗り挙げてくれたのがタケシだった。
だから、感謝してもしきれない。本当に色んな意味で恩人だと言える。
「何だよケイト。そんなにみつめるなよ。照れるぜ」
そう言うとタケシは両手を広げて空を見上げ声高に叫んだ。
「ルックミー、ルックミー!」
見ろと言われたので見てみる。
「俺を見るなー!」
わけが解らないよ……。
理不尽だ。
大体いつもこんな調子で、彼はシュールな笑いを取ろうとしてくれたり、もはや存在自体が天然でネタだったりするムードメーカーだったりする。
本当、普通にしてればいい男なんだけどね……。
「まだ完璧じゃねぇな……ちょっとアレンジ加えてみっか」
無駄なストイック精神を発揮させつつ、タケシは再度クネクネと徐々に奇妙なダンスを踊り始めるのだった。
ロボットダンスめいた珍妙なアドリブを追加しつつ……。
……うん、普通に上手いけどめっちゃきもい。
そんな中、ガラリと扉が開き、入ってきた男がいた。
眼鏡をかけたオールバックの姿。身長は180前後。結構高い。
年齢は僕と同じなので高校三年生。マントのように羽織った制服が結構さまになっている。
けど実はこの格好、部活に来る直前だけ、わざわざ格好つけるためにやっているのだそうで……。
そりゃあ、こんな無茶な着崩し絶対校則違反だもんね……。
そんな彼の姿を見て、軽く中二病入ってると思うのは、きっと僕だけじゃないはずだ。
彼の名は
切れ長のクールな目が印象的な細面の美丈夫だ。
眉目秀麗、才色兼備とはまさに彼のこと。
学年でも常にトップに近い成績を維持している。
……まぁ、トップではなく、二位とか三位になってしまう所が玉に瑕って感じではある。
あと、才色兼備は女性に用いるのが普通で男子には使わないらしいけど、しょうがないと思うんだ。
まつ毛長いし。肌綺麗だし。黙ってればヅカっぽいし。っていったら今度は某歌劇団ファンに怒られそうだけどね。
まぁ、簡単に言うとクールなイケメン。頭もいいよ。って所だ。
「よう、アキラ。
そんなアキラに対し、タケシが意味不明な挨拶らしきものをする。
なまめかしい踊りを中断し、徐々に奇妙なポーズを取りつつ、無駄に渋いイケボで、だ。
そんなタケシの奇行に対し、アキラは……。
「……あぁ。
まるで養豚場の豚を見るような目で一瞬だけ軽く見下しつつも、アキラは普通に席に着いた。
タケシの踊りにも、奇行にも、その無駄に意味不明な挨拶にさえも華麗にスルー!
実にクールな対応である。
まぁ、扱いに慣れているだけなのかもしれない。
何だかんだで二人も長い付き合いだ。仲は悪いわけではない。
どこかで通じ合うものがあるんだろう。きっと。
そしてアキラは静かに窓辺の席へと座ると、鞄から取り出した小説を読み始める。
部の活動が開始されるまで、アキラは大体こうして時間を潰している。
夕日を浴びて窓際で本を読む姿はとてもさまになっている。
まるで少女マンガか何かから抜け出してきたみたいだ。
だがしかし、そんな彼が読んでいる本のタイトルを見れば誰もがげんなりする事だろう。
その表紙に書かれていたのは……。
『異世界転生したら幼女のおぱんちゅだった件について』
……無駄にデフォルメされたアニメ調のロリロリ美少女がおヒップ様をこれ見よがしに強調させた体勢で頬を朱に染めつつ、そのスカートの下に隠されているべき秘密の布をさらけだしているという、いかにも童貞をこじらせた大きなお友達が好みそうな、もうカバーで隠せよ! と言いたくなるくらいに見てるだけで恥ずかしいイラストが表紙の、実にダメそうなタイトルだった。
ぬろう小説で大ブレイクしたギガンテス田中先生の最高傑作。おぱんちゅシリーズの最新作だ。
……一応アキラの言い分もフォローしてあげるなら、彼の言い分を意訳するとこんな感じだ。
『べ、別に流行らしいから仕方なく読んでみてるだけで、趣味な訳じゃないんだからねっ』
本については雑食家らしく、ラノベから専門書まで何でも読むタイプらしい。
ちなみにその食指は魔道書にまでおよぶというから恐ろしいことだ。
まぁアキラが言うには「魔道書と言ったって、昔の人間が書いたおまじないブックに過ぎない」らしいけどね。
実はアキラ、大のオカルトマニアでオカルト研究会の部員だったりもする。
つまりこの同好会と兼部しているのだ。
数多の魔術書を読み漁り、暗記している呪文は百を超える。
そんな恐るべき現代魔術師。それが長谷川輝の第二の顔なのであった。
けどまぁ、ここは現実世界、現代社会。科学万能の宇宙な訳で、何の意味も無かったりするんだけどね。
呪文と言っても真言系とかおまじない程度のものらしく、アキラ曰く――現代魔術とは己の内面を意図的に変化させる事で外界にも実際に効力を発生させるものである――とのこと。
だから――信じる事こそが最も大切な秘伝、秘奥であり奥義にして根本。信じた結果、良い効果が得られるのであるならば、それはもう魔術なのだ――とかなんとか。
よくわからないけど、つまり……。
……それってプラセボとかって言いません?
突っ込み所満載の魔術論。だけど実際にアキラが目の前でクリティカル――TRPGなどでサイコロを振った結果、レアな確率の大成功を起こす結果になること――を連発した時はさすがに目を疑った。
グラサイを疑ったが、ダイスに問題はなかった。
ちなみに、グラサイってのは、透明である事を悪用してイカサマを行うサイコロの事。
ダイスって言うのは、サイコロの事ね。
これ、TRPG界の常識なんだ。
まぁ、それは兎も角として。
三十六分の一の確率であるクリティカルを平然と連発したのは事実な訳で……。
多分、偶然だよね……?
そんな訳で今日も彼は自作のパワーストーンタリスマンとアミュレットを装着しはじめるのだった。
アクセサリーの類は授業中にしてると校則違反で怒られるからね。しょうがないね。
そんなこんなで、彼もまた、見た目は格好良いのに色んな意味で残念な部類に入る人間なのであった。
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