第四話「ありし日の日常3」
「喰らえ! 波紋の呼吸! オーヴァードラァァイヴ!!」
タケシが奇声を発しながら勢いよくカードを机に叩きつける。
「メメタァッ!!」
ちなみに、何をやっているかというと、これはトレーディングカードゲームと呼ばれるとてもアンダーなグラウンドでコアなオタクが好む超ドマイナーな遊びだ。
……詳しい説明をすると長くなるので、気になる人はグー○ル先生に聞いてみよう。
「魔法カード発動! 『民衆の怒り』!! フィールド上にあるモンスターカード一体を対象とする! そこの『ほくそ笑む悪徳政治家』にダイレクトダメージ!! 一撃で粉砕するぜ!」
「それに対してはカウンターね。『マスメディアの先導』を使用してターゲットを変更」
「なにぃぃぃ!?」
机の上に置かれている『夢叶えし者:スーパーアイドルトップスター』と書かれたカードを指差して移動させる。
可愛らしいイラストの描かれたカードは無残にも廃棄カード置き場へと送られる。
「アイェェェェ!?」
情け無用、慈悲は無し。これでタケシの持ち場にモンスターカードはゼロ。僕の勝利は目前となる。
「だが、俺は諦めねぇ! ならば別の戦士を召還するのみよ! いでよ! モンスターカード! 『革命の聖戦士』! 召! 還!! イ゛ェ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」
野太い声で叫びつつ謎のポージング。相変わらずタケシはリアクションが無駄に激しく暑苦しい。
有名カードゲームアニメにおける召還シーンの真似らしいんだけど、なんだかよくわからない叫び声にしか聞こえない。
「じゃあさらにカウンターを発動させるね」
「んげェッ!?」
「『社会の歯車』を使用。聖戦士君にはデッキの一番上へとお帰りいただこうか」
「あじゃぱぁぁぁぁ!?」
タケシの反応が面白いので、僕はどこぞの人型決戦兵器アニメの司令官のように机上で手を組みながらそれっぽくほくそ笑んでみた。
「クックック……勝ったな」
「くっ……! こいつにはッ! やると言ったらやる、といった凄みがあるッ!」
絶妙な傾きでバランスを取りつつ奇妙なポージングをするタケシ。
よくあんな姿勢で止まれるものだと正直関心する。
「さて……君にはさらなる絶望を与えてあげよう」
こうなるともうノリノリである。
「なァんだとォォォッ!?」
「ここにトラップカードがあるじゃろ?」
「ま、まさか……! ゴゴゴゴゴ……!」
「この木村ケイト! 容赦せん!」
「くぉぉ……! コール……! コール……! コール……!」
「トラップ発動。『見えざる貴族達の徴収』! 召還を行ったプレイヤーに500ポイントのライフダメージ」
「ぐぁぁぁぁ! ニニニニニィ~ン」
ライフポイントが減る音まで再現するし。いちいち芸が細かいよね。
そして反応(リアクション)が意味不明で面白い。
これだからタケシとの
「くっ、もう何もできねぇ……! ターンエンドだ!」
「じゃあ僕のターンね」
そんな風に、残る面子が集まるまでの暇潰しにと、無駄に暑苦しい謎の決闘(デュエル)を楽しんでいたまさにその時だった。
教室後部のドアが静かにスライドし、一人の女子生徒が室内へと入り込む。
それは、モデルのように美しい曲線を描くスリムなシルエット。
女子にしてはやや高めの身長。しなやかに伸びた四肢にくびれたウエスト。豊満なバストに整った顔立ち。
透き通るような白い手には、すらりと伸びた美しい指、健康的な色合いと理想的な形状を併せ持つ爪。
腰まで伸びた長いポニーテールは夕日の淡い逆光の中、艶やかな濡れ羽色に輝いている。
まるで絵に描いたような美少女だ。
室内の視線を一身にあびながら、彼女は優雅な仕草でその美しい手を軽く挙げると、鈴の音のようによく通る綺麗な声で開口一番こう言った。
「おいーっす!」
……その見た目にそぐわない、まるでオッサンみたいな口調の、無駄に元気が目一杯詰まった陽気な挨拶だった。
彼女の名は
この私立黄星学園無電源ゲーム同好会における紅一点。
……見ての通り、他のメンバー同様、美しい見た目とは裏腹に絶妙なまでの残念さを併せ持つ逸材だ。
「うん、おいーっす」
僕はごく自然に挨拶を返す。
いつものことだからね。
そしてアキラも当然、本を読みながら無言で片手を上げて挨拶を返す。
――で、問題児。
タケシは相変わらず奇妙なポージングで訳のわからない戯言を吐き散らかしていた。
「おいっす麻耶っち、
微妙な沈黙。
ハテナ顔で硬直する麻耶嬢。
これは流石にすべったか……?
僕がそんな風にタケシの芸人としての今後に若干の不安を感じ始めたその直後だった。
麻耶嬢は唐突に、何かが通じ合ったかのような意味深な笑みを浮かべると、
「
バァァァン!! と奇妙な効果音の鳴りそうなポージングと共に、どこぞの歌劇団もかくや、といった美少年ボイスで声高に謎の挨拶を繰り出すのだった。
……もうね。わけがわからないよ。
ニヒルな笑みを浮かべるタケシ。
二人は静かに目を瞑ると、もはや視認などといった無粋な行為は不要! とでも言いたげな微笑を浮かべつつおもむろに近づいてゆくと、すれ違い様に謎のドヤ顔でハイタッチを決めた。
そして、まるで何事も無かったかのように無造作に交差すると、そのまま各々の行くべき先――たぶんいつもの席だろう――へと進んでゆくのだった。
……本当、わけがわからないよ。
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