ぼくらはきっと君と同じ空を見上げている

箱丸

ぼくらはきっと君と同じ空を見上げている

 ミーンミーンミーン…。

 今年、平成最後の夏休み。今まで色々あったけど、本題はこれから。

 幼馴染の一人が引っ越しする日を伸ばし伸ばしまくっての結果、3ヶ月延ばしているのだが…。

「もうこれ以上延ばせない」と言って、いよいよ来週お別れすることになった。

 盛大なお別れにしよう!と…。



 秘密基地で作戦会議。

「プランは?」

 と新藤。プラン係。

「打上花火だろ?プレゼントだろ?あとは…」

 言い出しっぺの僕は指折りをする。

「打上花火はウチがパクってくるよ」

 と内田が二ヤリとした。

 親が花火屋だけあってさすがなのだが…。

「そんなんで大丈夫か?ハハッ」

 藤岡が笑いながら聞いた。

「大丈夫!大丈夫!ウチ一人っ娘だし。殴ったら出てくねって脅し済み」

 とてもニヤニヤしてる…。恐るべし、娘。

「脅しって…」

 藤岡は苦笑い。

「あとは?」

 新藤が続けた。

「あとは…、閃光弾?」

「あぶねーなおい」

 新藤、苦笑い。むしろ引いてる。

「いいんじゃね?」

 内田が肯定した。

 そんな感じでプラン組みは完了。あとは…、素材調達か。プレゼントなにすっかな。

 こんなド田舎に何も当てがない。

 ふぁー。とため息を吐いてると、

「あれ?どうしたの?」

 引っ越し主、森元さん。登場。

「なーんも。ところで、どこ行くの?」

 さりげなく。

「ジュンちゃん、そんな気になる?」

 はい、気になります。と目で訴えた。

「じゃあ君だけに…」

 と僕の耳に口を近づけ、「馬場市」とゆっくり言った。

 馬場市と言えば、5年前に騒動を起こしたヤツが引っ越した町だ。アイツのせいで電車が遅れたといっても過言じゃない。

「じゃ、うち…、行くね」

「ばいばーい」

 そう言って別れた。

 もう行っちゃうのか。そう考えると寂しい。 この村で生まれ育った5人の幼馴染。色々メーワクかけた5人組。平成で5人の幕は閉じるのか――…。

 話が変わりますが、森元の両親は、母が市長。父は知事というすごい組み合わせ家族。

 母が引っ越しを決めたらしく、なんとも『田舎だから怖い』という理由だ。

 そんなことで行かないと言い切って4度、生き残ったのだが、5度目は手強く、駄目だった。彼女曰く、父の方が僕を嫌ってるらしい。なんとも、5人組のリーダーという種だから?なのかもしれない。

 あのひと、ムカシハヤサシカッタノニナー(棒読みなう)

「くっ、こうなってても仕方ねぇ。盛大にするんだったらもっと盛大にっ!!」

 と叫んだ…。商店街の真ん中だとは知らずに。

「えっ?」「は?」「堀田さんの息子よねぇ」

 ヤベ。に―げよ!

 ………

 ああ。1週間は早い。あと4日で森元が…。

 秘密基地のソファーにぐったりとすると、

「おし、私は何玉めばいいのかな?」

 内田…。盗むのか…。

「じゃ、十玉ぐらい」

 相当重いが。

「どうって事ねー!」

 と秘密基地を飛び出した。

「閃光弾は俺が」

 藤岡が言って、出てった。

「プレゼントはどうすんのさ?」

 残った新藤が聞いてきた。

「いろいろ考えた上、思いついたのが…組紐。手作りだしそれしかないし」

 得意だし。

「全員で?」

「いいぜ?教えてもよ」

 ドヤッてみた。

「おし、決まりだな。あとは、打上花火、閃光弾。大丈夫かな…」

 と噂していると…

 ダンッ!

 と扉が勢いよく開いた。

 そこには…

「ふー。きっかり十玉。5号と6号、パクったぜ?」

 内田がレジ袋を持って登場。重さはなんと16kg!

「あれ?親父たちには?」

「ばれてない。寝てたから」

 よく聞くと徹夜していたらしい。

「あとは閃光弾か」

「アイツは天才だかんな。大丈夫だろ」

「だな」

 藤岡は、5人組の唯一の天才であり秀才。なんとも科学者を希望だとか。

「んで、堀田君。まさか、このまんまドカーンなわけないよね?」

 あ、そうだ…。

「夏祭りの打ち上げ台は?」内田が提案。「鍵もパクれば…」

「そうしようか。じゃ、決まりな」

 ………

 色々あって明後日。

 プレゼントの梱包は終了。あとはもう、プレゼント渡して花火上げて終わり…。なのか…。そう考えると寂しくなってくる。思い出が次々と蘇ってしまう…。

「あれ?堀田。泣いてんのか?」

 新藤が聞いてきた。

 実際には、泣いている。が、誤魔化さなければ。

「う…ううん。泣いてないよ」

 時間は刻々と迫っているが、こうなっても藤岡からはなんも連絡がない。

 噂をしていると、

「オッス。できたぜ」

 と、登場した。

「あれ?なんで泣いてんの?」

 藤岡からも同じことを聞かれた。

「ないてねえってば!」

 また誤魔化した。

「ま、明日は本番てことで。じゃあな」

 皆、帰宅した。

 ………

 今日は本番。引っ越しは明日の8時。お別れ会は今日しかない。

「あ、ジュンちゃん」

 探していたご本人が登場してくれた。

「あ。今日、夜の8時ぐらいにあの川辺にいてくれる?」

「うん。いいよ」

 断られたらどうしようと思ったのだが、その心配はいらなかった。

 いよいよ本番なんだ…。


 午後7時55分。僕は家を出た。あの川辺に向かった。

 あの川辺は、坂を下ってすぐの所にあった。登っていくと、花火の打上台ががある。

 つまり、花火が一番きれいに見えるポイントだ。秘密基地からもすぐ近くにあるので、なんといっても立地がいい。

 川辺に着くと、森元と内田以外がそこにいた。

「はえーな、みんな」

「あったりめーよ。打ち上げるんだろ?」

「ああ。打ち上げる」

「あ、みんな」

 そこで森元が到着した。

 8時。そろそろだ。

 →内田目線…

「8時か。いっちょやるか」

 カチッ

 →僕目線…

 空の闇を切るように1玉の花火がヒューーーンと上がり、ドーーンと爆発した。

 色は花火と言えばこれと言った感じの青と赤の花火。皆、それに見とれていた。

「キレイ…」

 森元はそう呟いたように見えた。

 もう1玉、もう1玉。と次々に上がる。そして連玉。

 花火一つ一つに思いが込められ、煌びやかに輝く。

 そして5玉目。

 →内田目線…

「おい、アキコ。何をしている?」

 その声を聴いたとたんに私の頭が真っ白になった。完全に父の声だ。

 振り返ると、やはり閉じたフェンスの向こうに父は立っている。

「え…、えっとこれは…」

 私がおどおどしている間に、父はフェンス内にいて、私の顔に平手打ちをするところだった。

「花火は花火職人がやるもんだ。俺にちゃんと言えばもっとよかったのにな」

 圧がかかる。とても怖い。

 →僕目線…

 急に空に闇が訪れた。

「あれ?5玉だけだっけ?」

 トタトタと坂を下る足音。音の主は内田だった。

「ごめん。親父にばれた」

 内田は泣きそうだった。

 そりゃ、ド田舎の空が急に輝くんだから。

「サンキューな」

 沈黙の10秒後、

 ヒューンドーン

 また輝いた。

「あれ?」

 7、8、9…次々に上がる。

「あれれ?」

「おとーさん。ありがとう」

「えっ?」

「あれ、親父が上げているんだと思う」

「なるほど」

 そして20玉すべて上がり、空は再び暗闇へと化した。

「みんな、ありがとう」

 森元の目からは涙が流れている。

「これ、やるよ。俺らで作ったんだ」

 そういって、4人が作った組紐が入っている紙袋を渡した。

「ありがとう…」

「うん」

「あのさ、ジュンちゃんに話あるんだけど、いいかな?」

「うん」

 もちろん。聞く。

 2人で奥に入った。

「私、ジュンちゃんの事が好き。皆も好きだけど、ジュンが一番。率先して頑張る姿も何かと格闘しているときもすべて好き」

「うん。ボクも好きだよ」

 そう言って皆の所に戻った。

「じゃ、解散…。だね」

「うん。ホントは嫌だけど」

「じゃあね」

 森元は帰路に行った。

「じゃ、皆で内田のとーちゃんに謝りに行こうぜ」

「ホント?ありがとう」

 皆で発射台へと向かった。

 ………

 昨日の花火の件でこっぴどく怒られた。

 でも、勝手に花火を上げるなではなく、徹夜して作った花火が使われたことを。

 今日は、森元が行ってしまう。

「じゃあね」

 森元は家のクラウンに乗った。

「じゃあ」

 さよならは言わない。言えば2度と会えなくならないように。

 5人の歴史は12年前から始まった。3歳だった僕らは保育園で出会い、それからは片時も離れずに過ごしていた。15年間同じ村で過ごし、離れる。それが運命なのかもしれない。歴史はいま閉じた。

「あ、手紙」

 ウィンドウから森元は5人の手紙を出した。

「じゃあ。またね」

 そういうとクラウンはゆっくりと加速した。

「ありがとうミサキちゃん!!!」

 皆で一斉に言った。大声で。

 →森元目線…

「ありがとう。皆。大好き」

 私は車の中でつぶやき、泣いていた。

 →僕目線…

 手紙をそれぞれ開けた。

 決して長文ではないが、それぞれの思いがつづられている。

[ジュンちゃんへ。ジュンちゃん、今までありがとう。でも好きなのは変わらない]

[アキちゃんへ。アキちゃんの行動力すごいな。私もほしい]

[ケーゴへ。ケーゴのプランのおかげでうまく行ける。その調子で頑張って]

[タキへ。タキの頭の良さは別格。立派な科学者になれるよ]

 僕らは泣いていた。あふれるほどに。

 ありがとうミサキ。忘れない。たとえ嫌いになっても…。

 ありがとう。そしてまた今度…。

 平成最後の夏。君の車は森の中へと消えた。


 *君と夏の終わり 将来の夢

 大きな希望 忘れない

 10年後の8月

 また出会えるのを 信じて

 最高の思い出を…


 出会いは ふっとした 瞬間 帰り道の交差点で

 声をかけてくれたね 「一緒に帰ろう」

 僕は 照れくさそうに カバンで顔を隠しながら

 本当は とても とても 嬉しかったよ


 あぁ 花火が夜空 きれいに咲いて ちょっとセツナク

 あぁ 風が時間とともに 流れる


 嬉しくって 楽しくって 冒険も いろいろしたね

 二人の 秘密の 基地の中


 君と夏の終わり 将来の夢 大きな希望 忘れない

 10年後の8月 また出会えるのを 信じて

 君が最後まで 心から 「ありがとう」

 叫んでいたこと 知っていたよ

 涙をこらえて 笑顔でさよなら せつないよね

 最高の思い出を…


 あぁ 夏休みも あと少しで 終わっちゃうからえ

 あぁ 太陽と月 仲良くして


 悲しくって 寂しくって 喧嘩も いろいろしたね

 二人の 秘密の 基地の中


 君が最後まで 心から 「ありがとう」叫んでいたこと

 知っていたよ

 涙をこらえて 笑顔でさよなら せつないよね

 最高の思い出を…


 突然の 転校で どうしようもなく

 手紙 書くよ 電話もするよ 忘れないでね 僕のことを

 いつまでも 二人の 基地の中


 君と夏の終わり ずっと話して

 夕日を見てから星を眺め

 君の頬を 流れた涙は ずっと忘れない

 君が最後まで 大きく手を振ってくれたこと

 きっと忘れない

 だから こうして 夢の中で ずっと永遠に…


 君と夏の終わり 将来の夢 大きな希望 忘れない

 10年後の8月 また出会えるのを 信じて

 君が最後まで 心から 「ありがとう」叫んでいたこと

 知っていたよ

 涙をこらえて 笑顔でさよなら せつないよね

 最高の思い出を…

 最高の思い出を…。


 空は青々としている。なんときれいなんだ。

「森元も見ているんだろうな」

 内田が呟いた。

「そうだね。きっと見ている」

 だって空は果てしなく続き、僕たちが見ている空は、君も見ている。

 皆で過ごした日々。君と一緒にいた日々。喧嘩した日々。イタズラして皆で怒られた日々。どれも掛け替えのない宝物。そして思い出。

 今振り返ればすぐに会える身近な存在。

 今振り返れば笑える思い出。イタズラばっかしてさ…。

 そして僕らはいつでもつながっている。どこにいても仲間は仲間。

 ありがとう。今までありがとう。

 ぼくらはきっと君と同じ空を見上げている。


 ―完ー   The End

 *secret base~君がくれたもの~ ZONE

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぼくらはきっと君と同じ空を見上げている 箱丸 @hakomal1972

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ