髪を抜かれる
雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞
ぷつん、ぷつんと引っ張られる、抜かれる
これは、聞いた話なんですがね──
知り合いのお子さんが、夜眠れないのだといいます。
5歳の女の子で、特に病気を抱えているわけではない。
だけれど夜眠れないから、お昼はぼうっとしてしまっているってんですね。
確かに育ち盛りの娘さんが、不眠症だというのならさぞ心配だろうと、話だけでも聞いてみることにしました。
「どうして眠れないか、わかる?」
「…………」
訊ねてみるものの、どうにも言いにくそうだ。
親御に目くばせをして退席してもらい、もう一度訊ねてみることにした。
「眠れない理由、知っている?」
「──から」
女の子は、小さな声で言う。
「なんだって?」
聞き取れなくてそう訊ね返すと、
「髪を、抜かれるから」
と言われた。
ぎょっとした。
まさか児童虐待だろうかと、頭の端で考えつつ、質問を続けてみる。
「誰に抜かれるの?」
「ながいおててに」
「顔はわかる?」
「ううん、顔はわからないの。でも、わかるの。毎日来るの」
毎日来る、髪を抜きに?
不審者か何かだろうかと、考えたそうです。
しかし、具体的に聞いていると、どうやら違う。
こういう話だったと、言うんですね。
女の子が寝かしつけられて、布団の中ですやすや寝ていると。
ぷつり。
ぷつり──と、頭皮が引っ張られる。
一本、また一本と、髪の毛が、長い手の人に抜かれていくだそうです。
そうされているとき、娘さんは動くことも声を出すこともできない。
ぷつり。
ぷつり。
ぷつん。
20数本も抜かれたあたりで、ようやくその人物は立ち去るのだとか。
「怖くないの?」
そう問いを掛けて。
そのひとは、心底後悔することになったそうです。
「怖くないよ」
だって──
「お母さんが、天井から手を伸ばして、髪を抜いていくだけだもん」
ぞっと肌が粟立ちましたね。
なにせ女の子のお母様は──その子を産んですぐ、亡くなっていたんですから。
ええ、聞いた話で、ございます。
髪を抜かれる 雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞 @aoi-ringo
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