髪を抜かれる

雪車町地蔵@好評発売中!

ぷつん、ぷつんと引っ張られる、抜かれる

 これは、聞いた話なんですがね──


 知り合いのお子さんが、夜眠れないのだといいます。

 5歳の女の子で、特に病気を抱えているわけではない。

 だけれど夜眠れないから、お昼はぼうっとしてしまっているってんですね。


 確かに育ち盛りの娘さんが、不眠症だというのならさぞ心配だろうと、話だけでも聞いてみることにしました。


「どうして眠れないか、わかる?」

「…………」


 訊ねてみるものの、どうにも言いにくそうだ。

 親御に目くばせをして退席してもらい、もう一度訊ねてみることにした。


「眠れない理由、知っている?」

「──から」


 女の子は、小さな声で言う。


「なんだって?」


 聞き取れなくてそう訊ね返すと、


「髪を、抜かれるから」


 と言われた。

 ぎょっとした。

 まさか児童虐待だろうかと、頭の端で考えつつ、質問を続けてみる。


「誰に抜かれるの?」

「ながいおててに」

「顔はわかる?」

「ううん、顔はわからないの。でも、わかるの。毎日来るの」


 毎日来る、髪を抜きに?

 不審者か何かだろうかと、考えたそうです。

 しかし、具体的に聞いていると、どうやら違う。

 こういう話だったと、言うんですね。


 女の子が寝かしつけられて、布団の中ですやすや寝ていると。

 ぷつり。

 ぷつり──と、頭皮が引っ張られる。


 一本、また一本と、髪の毛が、長い手の人に抜かれていくだそうです。

 そうされているとき、娘さんは動くことも声を出すこともできない。


 ぷつり。

 ぷつり。

 ぷつん。


 20数本も抜かれたあたりで、ようやくその人物は立ち去るのだとか。


「怖くないの?」


 そう問いを掛けて。

 そのひとは、心底後悔することになったそうです。


「怖くないよ」


 だって──



「お母さんが、天井から手を伸ばして、髪を抜いていくだけだもん」



 ぞっと肌が粟立ちましたね。

 なにせ女の子のお母様は──その子を産んですぐ、亡くなっていたんですから。



 ええ、聞いた話で、ございます。

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