夜に訪うモノ

英王

夜に訪うモノ

 この話は僕が仕事仲間のF氏から聞いた話だ――。


 F氏には中学生の一人娘がいる。そうだな仮に美穂としておこう。これは美穂が体験した話らしい。



 美穂は西日の差す教室で、友人と一緒にいたそうだ。友人の名前をリンという。彼女は美穂と幼稚園からの親友だ。リンは白磁のような肌に太陽のような明るい金髪、深い海のような碧い瞳を持っていた。

 両親のF夫妻は共働きで忙しく、美穂となかなか一緒にいることができなかった。その際に美穂と一緒にいてくれたのはリンだ。遊んでいたそうだ。楽しいことも、悲しいことも共有してきた。美穂が眠れない夜は美穂のベッドで一緒に寝ることもあったそうだ。



「ねぇ、メリーさんの怪談って知ってる?」

 

 リンは唐突にそんな話を始めた。もちろん、知ってる、と美穂は言ったらしい。何と言っても有名な話だ。捨てられたフランス人形のメリーさんが非通知の電話をかけながら、ちょっとずつ近づいてきて、最後には「今、あなたのうしろにいるの」と言う。といった内容の怪談だ。

 

 続けてリンは言う。

「私、思うのよね。最近の人は非通知の電話を取らないでしょ。この方法はもう成功しないって」


 美穂の視界に一瞬、ノイズがかかる。美穂はリンに不調を訴えようとするが、口が思ったように開かない。

 リンはただ静かに微笑んでいる。ノイズが二度、三度と続けて起こる。それに合わせて、リンの容姿が変化する。

 一度目は碧い瞳が色が剥げたように白く濁った目になる。

 二度目は綺麗な金髪はくすみ絡み合い、おどろおどろしくなる。

 三度目は白い肌はシミだらけになり茶色に汚れていく。

 三度目のノイズの後、リンは僅かに口を開いてねっとりと言う。

「一気に行くべきなのよ。私みたいに、ね。ねぇ何で私を捨てたの?」

 そこで美穂の視界は暗転した。




 F氏が夜中に響いた愛娘の金切り声に慌てて、美穂の部屋に行った。すると、ベッドの上で半狂乱の娘と四肢をもがれ、髪の毛を引きちぎられ、眼球をえぐられた着せ替え人形がいた。

 人形はF氏が娘が一人で寂しくないように幼稚園の時に買い与えたものだそうだ。


 F氏は何とか娘の美穂をなだめ、さっきの話を聞きだしたそうな。


 今、美穂がどうしてるかって?部屋に引きこもって、「人形が来る」とずっと言い続けてるそうだ。

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