【小説】『シュレーディンガーの少女』を読みました。観測者からの少女ディストピアSF

2023年11月25





 どうも。ご無沙汰しております。


 前回の秋アニメ第一話の感想を投稿して以来まったく更新していませんでしたけど、まあこの秋はいろいろなことがあってバタバタしていました。


 まず10月はポケモンSVのランクバトルで対戦環境がインフレして、そのインフレについていくので精一杯だったのと(結果的には結局ついていけなかったのですけど)、11月になったらなったでインフルエンザに罹り読書どころではなくなったこと、そのインフルエンザが治り仕事復帰したらしたであり得ないほど仕事が忙しくなり毎日ヒイヒイ言っている(現在進行形)など、この秋は読書に集中することができない状況でした。


 と、そんなことを言いつつちゃっかりポケモンのエッセイを新規で投稿しているあたり、自分の中でいろいろと優先順位がおかしいことになっているのかもしれません。まあ今のところ読書の優先順位が限りなく下がっていますけどね。



 新規投稿したポケモンのエッセイ、よろしければどうぞ。


 いい年した大人が一年間ポケモン対戦に挑んだ話

 https://kakuyomu.jp/works/16817330666262151896




 さて、読書時間が減りペースが落ちて一ヵ月レベルで一冊を読むようになりましたが、今回は二ヵ月レベルで読んだ小説。……別に分厚い作品でもないし読みにくい内容でもない、むしろ文字数的にも文体的にもかなり読みやすいSF作品集『シュレーディンガーの少女』について。







  書籍情報



  著者:松崎 有理


 『シュレーディンガーの少女』


  東京創元社 創元SF文庫より出版


  刊行日:2022/12/12



  あらすじ(Amazonより転載)

 すべての65歳に例外なく、プログラムされた死が訪れる世界。肥満者たちをテレビスタジオに集め、公開デスゲームを開催する健康至上主義社会。あらゆる数学を市民に禁じ、違反者を捕らえては刑に処している王国。はたまた日々の食卓から、秋刀魚が消え失せてしまった未来──様々なディストピア世界でたくましく生きのびる女性たちを描いた、コミカルでちょっぴりダークな短編集。









 全六篇からなる短編集。収録タイトルは『六十五歳デス』『太っていたらだめですか?』『異世界数学』『秋刀魚、苦いかしょっぱいか』『ペンローズの乙女』『シュレーディンガーの少女』。以下個々の感想。




『六十五歳デス』は大体六十五歳くらいで死亡するようななった世界で、六十四歳になった女性があるときスラムの少女を拾う話。女性自身が割と特殊な専門職業をしていて、弟子として少女に生きる術と専門知識を授けようとする展開で、残りの時間が僅かながらも死後に残るものを託そうとする話は読んでいてグッとくるものがある。SF設定もある程度ぼかしているもののメイン設定を活かした終末世界である点もSFとして面白かったです。



『太っていたらだめですか?』は肥満者を集めたデスゲームもの。健康志向の政党によるディストピアな世界観で、設定だけみればバカSFである。ただバカSFだからこそできる突飛なディストピアでもあるので、SFとして充分に面白い。オチも急にSFのレベルが上がって楽しめますね。まさかのオチでした。




『異世界数学』は数学嫌いの女子高生が異世界転移する話。数学が発展しなかった異世界において所謂現代知識で俺TEUUUする話ではなく、割と真面目に数学がない世界で自身の数学に対する向き合い方を見つめ直すいい話。数学ネタ満載で個人的にはかなり面白かったが、ただラストがブツ切り感が否めない。主人公の後日談はあるのはいいけど、できれば異世界側の後日談も欲しかった。



『秋刀魚、苦いかしょっぱいか』は女子小学生が自由研究で失われた料理であるサンマの塩焼きを再現する話。フードプリンタや感覚共有のディバイスなど、SFガジェットが豊富なうえ、近未来の食文化の変化を巧みに描写するなど、SFらしいSFで面白かった。




『ペンローズの乙女』は話の軸としては原住民が住まう南の島に流れ着いた現代文明側の少年によるボーイミーツガールといったところですが、合間合間で地球外生命体の存在に迫るシーンを挟みつつ、後半では遥か遠い未来で思念体型生命体がとうに滅んだ地球の記録を読み取っており、その読み取っているのが南の島のボーイミーツガールである、という話。全体としてはかなり壮大なスケールですが、メインはストレートなボーイミーツガールという、このスケール感のちぐはぐ感が面白い作品。




『シュレーディンガーの少女』は有名な思考実験を用いて多世界を描いた作品。メインで描かれた世界線は新型コロナウイルスのコロナ禍を彷彿とさせるゾンビパニックものであり、コロナ文学としての一面もある作品。内容としても思考実験的な要素も当然含まれており、かなり自由度の高いものとなっています。短編とはいえもっと先を読みたくなるような作品でした。







 という感じの全六篇ですが、全体的にはある種の観測者の物語ともいえるのかもしれません。


『六十五歳デス』では弟子の少女を迎えたことにより老い先短い老人が自身の人生を見つめ直す面もありますし、『太っていたらだめですか?』はデスゲームですからそのデスゲームを鑑賞する人間もいるわけです。『異世界数学』は主人公が観測者として数学のない世界を目の当たりにして、『秋刀魚、苦いかしょっぱいか』は研究という行いが広い意味で観測にあたるかと(?)。後半の『ペンローズの乙女』と『シュレーディンガーの少女』なんかはストレートに観測者の話である。


 こうした登場人物が未知の存在や世界と出会って自身を見つめ直して成長するといったものは、ある意味では物語の基本なのかもしれません。ただその物語の基本を突き詰めているからこそ話の軸がしっかりしており、エンタメSFとしてとても読みやすいものに仕上がっているという印象を受けました。



 いやホント、SFとしてかなり読みやすい部類に入る一冊でしたので、SF慣れしていない方にもSF入門としてオススメできる作品でしたね。






 という感じで、『シュレーディンガーの少女』でした。







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