【小説】『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』を読みました。これ劇場アニメで見てみたい気もする
2023年9月12日
早川書房から夏にふさわしい青春SFが出ていたので、早速読んでみる。というか夏に読まないでいつ読むんねんって感じの、ザ・青春。
ただまあ……個人的なことですけど、例のごとく諸事情により読書スピードが激減した自分にとって、夏の間に読み切れるのかどうか心配でしたが、まあ何とか。ゼルダとかポケモンとかガッツリやりつつもなんとか夏の間に読み切りました。
書籍情報
著者:高野 史緒
『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』
早川書房 ハヤカワ文庫JAより出版
刊行日:2023/7/19
あらすじ(Amazonより転載)
月と火星開発が進みながらも、インターネットが実用化されたばかりの夏紀の宇宙。宇宙開発は発展途上だが、量子コンピュータの開発・運用が実現している登志夫の宇宙。別々の2021年を生きる二人には幼いころ「グラーフ・ツェッペリン号」を見たという不可解な記憶があった。二人の日常にかすかな違和感が生じるなか、開通したばかりの電子メールで自分宛てのメールを送っていた夏紀のもとへ思いがけない返信が届き――。
青春SFの中でも所謂
よく青春SFなどで描かれている並行世界では、複数の世界がかなり酷似している、というかほぼほぼ同一の世界観であることが多い印象です。ですが今回読んだ『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』では近い世界でありつつも大きな相違点を設けているところは、なんだか珍しいというか、自分としては妙に新鮮な感覚がしましたね。よくある並行世界もので人物の行動によって結果が枝分かれした世界なだけではなく、しっかり科学技術なども枝分かれしているのが特徴ですかね。
また物語後半で開示される時間や空間などの解釈がとても興味深く、読み応え抜群でした。一口にひと夏の青春SFとは言うものの、SFとしての完成度が素晴らしい小説でしたね。
また結末としてもセカイ系としてのオチをつけていて、こちらはこちらで往年の青春SFを彷彿とさせるいい結末だったのではなかろうか。
さて、この『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』を読んだ最初の感想としましては、「新海誠監督作品にありそうな内容」というものでした。
というか新海作品の『君の名は。』が、時間によって隔たれた少年少女を描いた王道ボーイミーツガールですけど、『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』ではこの「時間」要素を空間として並行世界に置き換えた内容ともいえます。セカイ系である点も共通点かも。
また物語終盤のクライマックスシーンでは実に映像的な表現がされている点もあって、アニメーションなどで映像映えしそうな印象を受けましたね。まさに劇場アニメらしい青春SFでした。
『君の名は。』の記録的大ヒットのあとに、ライト文芸やライトノベルなどで『君の名は。』を意識したかのような焼き増し青春SFが増えた時期がありまして、さらにはその数年後には『君の名は。』を意識した劇場作品が続々と公開されるなど、「ジェネリック新海誠」と揶揄されたこともありました。
言ってしまえば『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』もジェネリック新海誠と言えなくもないですが、『君の名は。』公開からもう7年も経過している今、さすがにジェネリック新海誠には当てはまらないかと。
そういう意味であれば、青春SFというジャンルがジェネリック新海誠と揶揄される時期を脱した今にこうした小説がリリースされたことにより、王道的なボーイミーツガール青春SFを純粋に楽しめるようになったのかも。なんだか実にいいタイミングでいい作品が出てきてくれた印象でした。
とはいえ『君の名は。』や『天気の子』みたいに大ヒットするかと言われると微妙なところで、どちらかというと昨年公開された小説原作の劇場アニメ作品『かがみの孤城』のように、作品としてのクオリティは高く面白いけど大きな話題になることなくひっそりと上映が終わるような、そんな隠れた傑作映画になりそうな予感がする。
まあそんな妄想をしつつも、劇場アニメ化されるのであればぜひ鑑賞したい。というかこの内容を小説としてではなく映像で見たかった気持ちが強いですかね。
とはいえ久々にいい青春SFに触れられて満足した読後感でした。
そんなこんなで、青春SF『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』の感想でした。
これといって関係のある話ではないのですが、今回感想記事を書いているときに自然と「隠れた名作」とタイピングしたのですが、ふと「隠れているのなら名作ではないし、名作なら隠れていない」と思ってしまい、結局「隠れた傑作」と書いたのですが、「名作」は知名度込みでの言葉だろうか? 「名作」と「傑作」では微妙にニュアンスが違いような感じがしました。
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