【小説】『バイオスフィア不動産』を読みました。住まいから迫るヒューマンエンタメSF
2023年8月3日
どうも。ご無沙汰です。案の定ポケモンやらゼルダやらで全然読書ができていない今日この頃。というか最近は夏バテで余計に本読んでない……。
まあそんなこんなで、いつもの如く一冊読み切るのにかなりの時間が……。文庫一冊読むのにエライ時間がかかっている気がする。本の内容が悪いというわけではなく完全に自己都合ですけど。
あれこれありますが、久々に記事書きました。読んだ小説は『バイオスフィア不動産』です。
書籍情報
著者:周藤 蓮
『バイオスフィア不動産』
早川書房 ハヤカワ文庫JAより出版
刊行日:2022/11/16
あらすじ(Amazonより転載)
バイオスフィアⅢ型建築、それは内部で資源とエネルギーの全てが完結した、住民に恒久的な生活と幸福を約束する、新時代の住居。その浸透によって人類の在り方が大きく様変わりした未来、バイオスフィアを管理する後香不動産の社員として働くアレイとユキオは住民からのクレーム対応により、独自に奇妙な発達を遂げた家々の問題に向き合っていくことになる――ポスト・ステイホームの極北を描いた新時代のエンタメSF。
『バイオスフィア不動産』という作品は「住まい」を題材にしたエンタメSFで、この「住まい」から展開されていくSFのテーマ性がなかなかに興味深いものでした。
作中では、ひとつの住まいの中で完全なかたちでの自給自足を成立させているという設定。住民は衣食住だけではなく、あらゆる欲求を家から出力させる代替品で満たすことが可能となる。
いわば、住まいそのものが住民にとってひとつの世界、自分の世界として機能し、外界からの影響を受けることなく自分の世界に引きこもることができるわけです。
そんな設定を活かした内容で、住民から寄せられるクレームを対応する不動産屋の話。独自の世界観を形成した住民による一見奇妙なクレームを解決していく連作短編ともいえ、ジャンルはSFですけどミステリー要素も強めな作品となっております。
話の肝としては、やはり住民たちがそれぞれ自分の家で形成した独自の世界にいるところだろうか。家の中ですべてが完結しているということは、すなわち外に出る必要がないということ。それによって生じた変化が、社会の喪失である。
住まいから「『人の社会性』とはなにか?」というテーマに迫るのは、純粋に面白いと感じましたね。人の社会性は他者がいてからこそ発生するものとする。
社会とは世界そのものでもあるし、国や地域でもある。学校や会社の人間関係も社会だし、もっと縮小して家族関係も社会である。
そうしたコニュニティの中においてその人が求められている価値、求めているものの集合体こそが社会と言えるのかもしれない。大人らしく、子供だから、あるいは性別であったり容姿であったりと、ある種の社会的地位はそれを相互に求め合う他者がいてこそ成立するものであるかと。
そういう観点でいえば、この作品ではほぼすべての人が家の中で自分だけの世界に引きこもったことにより、外界では人がいなくなったことによる社会の喪失という着眼点は、読んでいてなるほどなと感じましたね。
家の中であれば、いい年したおっさんでも子供みたいな振る舞いをしても許されるというもの。なにせその家こそがその人の世界そのものなのだから。
そうした家の中と外との対比がある意味ディストピア的であり、SFとしての面白さを底上げしている印象を受けました。エンタメをやりつつもヒューマニズムに迫るところはまさにSFらしさがありますね。
ただまぁ……個人的な不満点をあげるとすると、正直オチが微妙な感じがした。
別に悪くはないし、これといって雑な結末というわけでもない。ただ話の目的のスケールに対して、ラストが棚からぼた餅的な展開で、でも最終的な結末としてはなあなあに終わってしまった印象がある。一応キレイな終わり方ではありますけど、妙なモヤモヤが残った感覚ですかね。
言ってしまえば、連作短編ものによくあるような、とってつけたかのような結末ですかね。各話である程度のオチをつけつつも、連作として急ごしらえのオチをつけた感じ。
だからといって、じゃあこの作品が駄作なのかといえばそうではない。むしろいい作品と思ってきます。
いい作品だからこそ、この終わり方はもったいないと感じたとろこですかね。これ一巻だけではなくシリーズとして続けてもいいのではと思えてならない。設定が「不動産屋のクレーム対応」というネタが思いつく限りいくらでも話が作れそうないい設定ですしね。
でもまあ出版における大人の事情とかあるでしょうし、何よりそもそも一巻完結として書かれているものを自分が勝手に連作として期待してしまっているのかもしれない。
まあそんなこんなで、『バイオスフィア不動産』を読んだ感想。面白いエンタメSFでした。いい作品だと思います。
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