【小説】『時給三〇〇円の死神』を読みました。作品が想定している読者層って大事よね

2022年9月16日






 今回は以前お勧めされた小説を読んでみました。


 ただまあ……先に断っておくと、自分には合わなかった。いやまあ購入前から明らかに自分みたいな人間をターゲットにした作品ではないだろうとは思いましたけど、ただ偶然にも勧められた後にBOOK☆WALKERで双葉社セールが開催されたので、いい機会なので読んでみるかと読んでみて、やはり合わなかった。


 とはいえ悪い作品かというとそういうことではなく、あくまで自分と作品との相性の問題なので、そのあたりのことに触れつつ作品の感想を。









  書籍情報



  著者:藤まる


 『時給三〇〇円の死神』


  双葉社 双葉文庫より出版


  刊行日:2017/12/13


  あらすじ(Amazonより転載)

「それじゃあキミを死神として採用するね」ある日、高校生の佐倉真司は同級生の花森雪希から「死神」のアルバイトに誘われる。曰く「死神」の仕事とは、成仏できずにこの世に残る「死者」の未練を晴らし、あの世へと見送ることらしい。あまりに現実離れした話に、不審を抱く佐倉。しかし、「半年間勤め上げれば、どんな願いも叶えてもらえる」という話などを聞き、疑いながらも死神のアルバイトを始めることとなり―。死者たちが抱える、切なすぎる未練、願いに涙が止まらない、感動の物語。









 まず大雑把に作品の概要を表すと、少し不思議系の青春恋愛ものといったところでしょうか。


 話の内容は全然違いますが、映画『おくりびと』を青春ファンタジーにした感じですかね。いや全然話の内容が違いますし、なんなら全く関係ないですが、ニュアンスだけでも伝わってもらえたら幸いです。


 要は、死んで幽霊となった「死者」の無念を晴らして成仏させる、というお話です。


 その死者を成仏させるにあたっての作品の設定がポイントとなっており、とくに自分が興味を持ったのが歴史修正の設定。死者が死んでからの行動は、成仏した際に歴史の修正力が働きなかったことになる、というもの。つまり死亡した時点で通常の世界線と死者として彷徨う世界線に分岐し、成仏した時点で死者世界線が消滅するといった感じですかね。


 このあたりの歴史修正の設定はパラレルワールドやタイムパラドックスなどといった時間SF作品によくみられるものであり、いちSFファンである自分としてはちょっとしたSF風味を感じました。


 ただ……SFファンの自分が興味を持てたのはここまででしたね。


 その他では、死者を成仏させる役割の死神が役目を終えると自身の記憶が消えるとか、果てには死者は自分が成仏するための力として特殊能力を身につけて異能力者になるなどといった設定は、さすがにご都合的過ぎて「なんじゃそりゃ」とツッコミを入れた。


 あとは死神に指示を出している組織が最後まで謎な存在であったり、また主人公の時給が三百円の理由もとくに描かれなかったりと、設定関係の扱いが穴だらけだったのはいただけない。このあたりも「こまけぇこたぁいいんだよ」と言われているようで納得がいかなかった。


 別にSF作品とかではないから設定の整合性はそこまで追求しないけど、でも一応自分はSF畑の人間ですので、SF屋としてここまでガバガバな設定はさすがに本筋のストーリーに集中できなかったです。






 本筋のストーリーということだと、ネタバレ気味になるかもしれませんが、所謂ヒロイン死んじゃう系の作品。まあ青春ものとしては王道中の王道ではありますね。


 それだけにもう既に多くの名作が生まれているジャンルであり、それこそ同じ双葉文庫であれば『君の膵臓をたべたい』などの大ヒット作品があるわけですしね。


 自分としてはこの小説の冒頭を読んだ時点で「メインキャラ死んでるなコレ」と察してしまった。その後も「いやさすがにそこまで芸のないことはしないだろう」と思いつつ意外性を期待して読んでみましたが、本当にその通りの展開で辟易した。まあ……話がオチに向けて畳み始めたあたりから流し読みでしたね。


 話としては、死んだ人間を成仏させるためか、それなりに重め。ただ……言っちゃ悪いですけど、ありきたりなシリアス。普通に生活しているとそういう暗い過去がある人と接することもありますし、なんなら映画とか一般文芸とかのフィクションにおいてももっとハードで激シリアスな胸糞展開の作品とかいっぱいありますしね。


 ライト文芸でいうと三秋縋作品とかはシリアスを通り越して鬱小説の域に達していますけど、その三秋作品と比べてしまうと中の下くらいのシリアス具合ですかね。マイルドな三秋作品くらい。……マイルドな三秋作品は果たして三秋縋なのかどうか疑問ですけど。まあ自分が三秋作品を気に入っているのはSF要素があるからなんですけどね。






 話は逸れてしまいましたが、ここまで全然いいことを書いていない感想ですけど、でもこれは別にこの小説が駄作だからというわけではない。


 これは単純に読む人の問題。


 実際に読みながら「この小説……若い子が好きそうな内容だな~」と感じていました。非常に読みやすい簡潔な文体に、適度な不思議要素があって、適度なシリアスで引き込み、等身大の少年少女を描くことで青春小説としての魅力を整えたこの作品は、まさに中高生の好みに直撃するであろう内容でした。


 それこそティーンズ向け実写映画の原作にしてもおかしくないくらいの作品でした。



 一方で、年齢を重ね、人生経験も積み重ね、創作物においても多くの作品に触れてきた、そんないい大人が読むには刺さるものがなさすぎる。


 あまりネット上で自分の年齢を明かすことはないのですが、まあギリギリ昭和生まれのゆとり世代のおっさんが読むべき小説じゃねぇなと、読みながら思いました。


 加えて、自分はどちらかというと理屈人間なところがありまして、そのため「感動の物語」とか「泣ける話」みたいな感情的な作品は、正直読んでもピンとこない。この書き物だって、「面白かった!」とか「共感した!」みたいな感想ではなく、作品の特徴を捉え、世界観設定やストーリー構成の完成度などを取り上げて、分析するかのように抑えるべきポイントを書くようにしています。それって要は、自分が作品に対して注目している点がドラマよりもクオリティに寄っていて、そこに面白さを見出すタイプの読者なんだと思っています。


 あとはなんでしょう……物語の中で人の在り方みたいな問いがあるものが好きですね。哲学的とはまたちょっと違いますけど、そういったテーマ性やメッセージ性があると深みが増す感覚があります。自分がSF好きなのも、科学によって変化した世界においての人間性に迫るテーマが多くの作品で描かれているからなんですよね。そのテーマ性という部分がSFの魅力の一つだと思っています。SFと哲学は相性がいい。



 いやまあ自分は青春ものも好きですけど、でもそれは中年が主人公よりは少年少女が主人公であった方が物語に若さ故の活力が出てきて面白いからなんですよね。そういった主人公の若い活力で引っ張っていく理屈的なSFとかサスペンスが好きであって、感情的なリアル中高生向けの作品を読みたいわけじゃない。


 これ……未だに、どうしてこの小説を勧められたのか、自分でもよくわかってない。



 小説に限らず映画でも何でも、作品って触れてほしいメインのターゲット層があります。小説においても各出版社の各レーベルごとに想定している読者層というのがあって、まずはその読者層に届ける作品を発表します。もちろん老若男女問わずに受け入れられれば大ヒットするでしょうけど、ピンポイントで狙った作品も当然あります。


 極端な例ですが、男性向けのエロマンガを女性が読んで不快に思われるケースとかありますけど、そりゃそうですよ。だって作者も出版社も女性が男性向けエロマンガを読むなんて想定していないから。


 逆な例としては、少年漫画において女性ファンが増えてきて久しいですが、その女性読者からの感想意見を取り入れた作品を連載し始めた結果、本来想定していた少年層が漫画から離れてしまった、なんて話も聞いたりしました。


 今回読んだ小説も似たようなもので、どうみても本来の読者層が中高生向けの小説を、いい歳した大人が読んだのですから、そりゃいい感想は出てこないでしょ。なにせターゲット層から外れた読者なんですから。


 双葉文庫の名作である『君の膵臓をたべたい』だって、いい話だけど心の底から楽しめたかといえば疑問が残る作品でしたからね。あくまで自分としては。






 そんなこんなで、この『時給三〇〇円の死神』を読みながら「狙っている読者層って大事だね」ということを感じました、という感想でひとまず勘弁していただけないでしょうか? 


 いやせっかくお勧めしていただいて大変申し訳ないのですが、自分とは相性の悪い作品でいい感想を書くことができなかったのは、完全に自分の落ち度です。とはいえ嘘をついてまで当たり障りのない感想を書くのも違うので、正直な感想を書きました。


 お見苦しい感想で申し訳ございませんでした。





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