【映画】『夏へのトンネル、さよならの出口』を見てきました。これは映画単体で見た方がいいかも
2022年9月10日
9月9日より劇場アニメ『夏へのトンネル、さよならの出口』が公開されました。
原作小説の出来がよく、自分としてもお気に入りの作品の映画化なのですが、まあPVが公開された時点で「これ……アカンだろ……」という感想でした。いやだって、主人公たちの演技が棒だし、主題歌がなんかオサレアーティストだし、全体的にもジェネリック新海誠っぽさのあるアニメーションだし……という感じで全く期待できなかったんですよね。劇場公開前は。
ただたまたま公開初日にスケジュールの都合ができまして、「見に行くのか? あのPVの映画を?」とは思いましたけど、単純に原作小説が好きな自分として「ウラシマトンネルがどういう風に映像化するのか?」という部分が気になっていたので、結局見に行きました。
まあ映画の方は……うん。
公式ページ:https://natsuton.com/
あらすじ(公式ページより抜粋)
ウラシマトンネル――そのトンネルに入ったら、欲しいものがなんでも手に入る。
ただし、それと引き換えに……掴みどころがない性格のように見えて過去の事故を心の傷として抱える塔野カオルと、芯の通った態度の裏で自身の持つ理想像との違いに悩む花城あんず。ふたりは不思議なトンネルを調査し欲しいものを手に入れるために協力関係を結ぶ。これは、とある片田舎で起こる郷愁と疾走の、忘れられないひと夏の物語。
PV(YouTube)
https://youtu.be/29KybHTiCqc
原作小説については以前ここで感想記事を書きましたので、作品の詳細についてはそちらをご覧ください。
【小説】『夏へのトンネル、さよならの出口』を読みました。もはやラノベクオリティの域を超えている
https://kakuyomu.jp/works/1177354054886711486/episodes/1177354054918914300
さて劇場公開された映画『夏へのトンネル、さよならの出口』ですが、個人的な第一印象としては「こんな話だっけ? ……こんなんだったか?」という、ある種の困惑でした。
もちろん原作小説を読んでからかなりの時間が経過していますので、細かいところが曖昧になってしまってはいるのですが、それにしても、原作から変わりすぎてないか?
映画版は冒頭からすでに原作小説とは違う始まり方をしまして、端的にいえば原作小説をかなりの勢いで端折っている感じですかね。原作小説のダイジェスト版みたいなストーリー構成になっている。
とくに原作から大胆にカットした要素としては、同級生とのエピソートが全カットされている点。
ヒロインと対立するクラスメイトとして川崎小春が登場して、原作小説でも丁寧にイベントが発生してキャラクター性を掘り下げているのですが、映画ではそんなものはなかった。映画版ではヒロインの花城あんずが初登校してきたその日のうちに川崎を殴って、それでおしまい。そのあとに和解するシーンはあることにはあるのだが、セリフなしでサラッと描写する程度。ものの数秒。そんなわけで黒髪の川崎は登場しない。川崎の家に行くシーンもない。
さらに主人公の友人である加賀翔平も、大したことしなかった。映画ではただただ主人公を冷やかすだけの役割でしかなく、正直印象に全く残らない。
いやちょっと……さすがに扱い酷くね?
原作小説『夏へのトンネル、さよならの出口』は主人公の塔野カオルとヒロインの花城あんずとの関係を描きつつも、一方で主人公たちの周りの人物もしっかり掘り下げられているので、文芸的な青春劇としての一面がありました。
だが映画版『夏へのトンネル、さよならの出口』ではそういった同級生たちのエピソードをゴッソリカットしたために、主人公とヒロインの関係性だけとなった。
加えて劇場アニメ作品としてのオリジナルな部分や制作に伴う解釈により、青春劇は青春劇ですけど、より一層にラブストーリーとしての要素が強くなった。もちろん原作小説でもそういう要素はあるが、悪い言い方をすると、映画版はなんか恋愛脳な仕上がりになってしまっている。
なんですかね……原作小説は青春SFだったのですが、映画は恋愛ファンタジーなんですよね。この部分が、SFファンとして原作小説を気に入っている自分としてはかなりの不満点でした。
そうなんですよ。原作小説では、主人公とヒロインがウラシマトンネルを検証する中でウラシマ効果をベースにした考察もあり、SF作品としての見方もできた。しかし映画版では当然の如くカットされた。映画ではウラシマトンネルがただのファンタジー的な不思議でしかなかった。
それにラブストーリーをメインにするためか、原作のエピローグもカットされていた。まあエピローグでは大人になった川崎や加賀が登場するのですけど、映画で同級生たちのエピソードを全カットした関係上、出てきても「誰だコイツら」ってなるかと思うので、エピローグカットは仕方がないといえば仕方がないのかも。
ただエピローグをカットしたせいで、主人公の家族関係が後味悪い感じで終わってしまったのももったいない。原作では不器用ながらも歩み寄りの姿勢が見えたところで結末なのだが、これがないのでただただ喧嘩別れしてそのままとなってしまっている。
あと個人的には、原作のクライマックスシーンがお気に入りでして、映画でもそのシーンに差し掛かったところで期待したのですが、しかしながら制作側との解釈違いなのか、期待していたよりもずっと地味なものでして、肩透かしを食らった気分になりました。
あとは……強いていえば、テーマ性がなんか違う感じもしました。原作小説では文芸的なテーマ性があって、それを軸に物語が進むからこそライトノベルでありながら文芸作品としての読み応えがありました。でも映画ではラブストーリーに重きを置いたせいか、テーマ性がブレてしまっているんですよね。そのあたりもなんだかんだで解釈違いを感じましたね。
SFファンである故に青春SFとして不満もあるが、同じく小説好きで文芸作品として気に入っているだけに、話としても不満が残るものがありましたね。
これ……『夏へのトンネル、さよならの出口』は小説だからこそ面白くて、文芸的な傑作だったのではと思えてならない。
それをただの青春ラブストーリーだけにしたせいで、なんだか没個性な恋愛映画になってしまった、というのが映画を鑑賞した個人的な感想でした。
ただこの映画版は、青春ラブストーリーという一部分だけに注視すれば、無駄のないストーリーラインであり、初見でもかなり見やすい映像作品に仕上がっていましたね。……まあ原作ファンとしては無駄がなさすぎて不満なんですけど。
なので、この映画『夏へのトンネル、さよならの出口』は原作未読で事前情報とか調べない完全初見の状態で鑑賞した方が、純粋に青春ラブストーリーとして楽しめるかと思いますし、それこそデートムービーに相応しいのかもしれません。映画版では主人公とヒロインの恋愛だけをピックアップして描いていますからね。
そんなこんなで、ジュブナイルなSFが好きな自分としては、原作小説を100点満点とすると、映画版は精々70点くらいになるかと。ただ映画から見て鑑賞後に原作小説を読めば100点から130点になるわけですので、あくまで原作と映画で切り分けて楽しんだ方がいいのかも。
それこそ原作小説と映画とでは大まかなあらすじは同じでも、方向性が違う別作品と捉えた方がいいのかもしれませんね。
そんなこんなで劇場アニメ『夏へのトンネル、さよならの出口』の感想でしたけど、個人的にはイマイチな感じでしたが、劇場アニメ作品としてはいい出来栄えでしたので、アニメ好きの方は是非。
あと、そうそう、ウラシマトンネルですけど、そういう映像化になるのか~。いやなんか、鳥居じゃないんだなって感じでした。そういう解釈なのね。
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