【小説】『ミミクリー・ガールズ』を読みました。美少女SFミリタリー(中身おっさんだけどな!)

2022年9月4日







 ライトノベルの分野においてSF作品の取り扱いがある貴重なレーベルとして、小学館のガガガ文庫とKADOKAWAの電撃文庫があります。


 多くのレーベルがライトノベルの主流である異世界ファンタジーや青春ラブコメを出す一方、ガガガ文庫と電撃文庫は主流以外のジャンルも積極的に発表していますね(もちろん両レーベルも異世界ファンタジーや青春ラブコメを出版している)。


 ミステリー系はライト文芸へと移行してしまいましたが、SFに関しては今もライトノベルで出ることが多く、そのラノベSFの傑作名作のほとんどがガガガ文庫と電撃文庫の二大レーベルから出ています。


 新人賞でも毎年何かしらのSF作品を受賞させているのもこの二大レーベルであり、自称SFファンとして毎年チェックしています。むしろ受賞作品にSFがない年とかは外れ年と個人的に思ってしまうほどです。


 そんなこんなで電撃文庫の新人賞を受賞したSF作品がようやく出版されましたので(厳密には受賞発表から時間が経ちすぎて存在を忘れていましたが)、早速(ようやく)読みました。









  書籍情報



  著者:ひたき


 『ミミクリー・ガールズ』


  KADOKAWA 電撃文庫より出版


  刊行日:2022/7/8



  あらすじ(Amazonより転載)

 機械仕掛けの最強美少女(?)4人組が世界の巨悪を迎え撃つ!///第28回電撃小説大賞 《銀賞》受賞作///2041年。人工素体技術――通称 《ミミック》が開発され幾数年。作戦中、不慮の事故により重傷を負ってしまったクリス・アームストロング大尉は、素体化手術を受け前線復帰……と思いきや術後どうも体の調子がおかしい。鏡に映った自分を見るとそれは白い柔肌にさらさらヘアーの良く似合う――美少女だった!?!!?謀略と怨嗟が蠢く戦火の陰で突如結成された、4体の少女型素体からなる即席部隊。

その名は――『ミミクリー・ガールズ』。射撃、格闘、潜入。あらゆる分野のスペシャリストである彼女たちに与えられたミッション。それは謎の国際犯罪組織"バル・ベルデ"に狙われた大統領の娘の護衛だった。クールなティータイムの後は、キュートに作戦開始!少女に擬態し、世界の巨悪に立ち向かえ――!








 側だけ見れば美少女が銃火器を振り回して大暴れするロリミリタリーものであり、オタクが好むであろう要素がてんこ盛り。……ただし中身は特殊部隊員の屈強なおっさんだけどな!


 このあたりは設定の上手さがありますね。SFとしての人工素体技術の設定により、脳と脊髄さえ無事でいればいくらでも身体を交換できる。それこそ服を着替える感覚で身体を変えられることもあり、SFミリタリーとしてのハードさをおさえつつ、おっさんが美少女になるという荒唐無稽なことも平然とできる。オタク用語でいえばTSとかバ美肉といったところだろうか。


 またこのSF設定により、おっさんが美少女になるだけではなく、美少女が武器を持って戦闘行動することへの説得力に繋がっている点も評価したい。


 よくアニメとかで美少女が身の丈ほどある武器を振り回すシーンとかあるが、アレは冷静になって考えると「その体格でその武器は無理だろ……」とツッコミたくなる。


 しかしこの『ミミクリー・ガールズ』においては、美少女の中身が特殊部隊員であるため銃火器の扱いに慣れており、また身体も本物の肉体ではなく戦闘用に強化しているので、美少女ミリタリーという構図に対してどこも無理をしていないことになる。こういった美少女作品における無理を解消した点については素直に上手いなと感じましたね。


 また人工素体の設定を活かしてターミネーター的な敵役が登場するのも、物語として面白いポイントかと。身体を交換できるという設定だからこそできるアクションシーンは必見。


 あとはSFとしてみると、人工素体によって身体を交換できることによる兵士の自己喪失についての言及もあり、言ってみればハードウェアである身体とソフトウェアである人格とで、どちらがよりアイデンティティに作用するのか、という真面目なテーマ性も描かれており、純粋にSF作品としての読み応えもある。人工素体がただおっさんが美少女になるためだけのTS用設定にとどまらず、SFのテーマ性として掘り下げているところは、いちSFファンとして面白かったですね。








 そうそう、ターミネーター的な敵役が登場するのですけど、この『ミミクリー・ガールズ』は往年のハリウッド映画のネタが多い。というかむしろそっちがメインじゃないのかと言いたくなるくらい映画ネタが満載。


 主人公をはじめとする特殊部隊員たちもどことなくB級映画のステレオタイプなキャラクター性。実際に台詞回しとかも洋画の吹き替えを書き起こしたかのようなものが多く、正直に言えばこのノリは読む人を選ぶかも。


 それでいて見た目だけはラノベらしい美少女なものですから、ギャップが激しい作品ですかね。


 ただSF設定の秀逸さに豊富なミリタリーネタや映画ネタ、スリリングな戦闘シーンの数々、そしておっさんが美少女になるバカラノベといった、アクションコメディとしての楽しみ方ができる。個人的には良作エンタメSFでしたね。



 なんでしょう、アニメ化とか向いている作品かも。とりあえず、登場する美少女たちが可愛かったです(中身全員おっさんだけどな!)。









 そんなこんなで、電撃大賞受賞のSF作品『ミミクリー・ガールズ』の感想でした。結局全員おっさんだったけどな!





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