【小説】『エスケヱプ・スピヰド』を読みました。和風レトロフューチャーはサイコーですね

2022年5月10日






 電子書籍で小説を読んでいると、かなりの頻度でセールが開催されることがあります。まあ紙の本とは違って印刷するコストとかもかからない一方で、普段紙の本と同じ値段で販売していますから、儲けとしては桁違いなのでしょう。それ故に頻繁にセールを開催できる、と個人的に解釈しています。


 そんなこんなでせっかくのセールなので、昔気になっていたけどタイミング逃して結局読めていない作品を読むことに。タイトルは『エスケヱプ・スピヰド』。









  書籍情報



  著者:九岡 望


 『エスケヱプ・スピヰド』


  KADOKAWA 電撃文庫より出版


  刊行日:2012/2/10



  あらすじ(Amazonより転載)

 昭和一〇一年夏、廃墟の町“尽天”。暴走した戦闘兵器に襲われた叶葉は、棺で眠る不思議な少年に出会う。命令無しに動けないという少年に、叶葉は自分を助けるよう頼む。それは、少女と少年が“主従の契約”を結んだ瞬間だった。少年は、軍最強の兵器“鬼虫”の“蜂”九曜と名乗った。兵器ゆえに人としての感情が欠落している九曜だが、叶葉はそんな彼を一人の人間として扱い交流していく。徐々に心を通わせていく二人。しかし平穏な日々は、同じ鬼虫である“蜻蛉”竜胆の飛来によって打ち砕かれ―!?閉じられた町を舞台に、最強の兵器たちが繰り広げるノンストップ・アクション。第18回電撃小説大賞“大賞”受賞作。









 SFラノベですが、SFとしてはレトロフューチャーに分類されるかと。ただ単に科学的な発展を描くのではなく、ある時点で分岐した架空の現代というもの。レトロフューチャーでわかりやすい例をあげると、まさに全身タイツの未来人だったり、あとは空飛ぶ自動車とか円盤状の建物だったりですかね。そういった昔の人が考えた未来像というのが所謂レトロフューチャー。


 ただレトロフューチャーというとイコールで古典SFになってしまいがち。当時の科学技術をもとに想像した未来像ですので、当然のことながらトンデモ未来になってしまいます。まあそのあたりがレトロフューチャーの面白いポイントでもあるのですけどね。


 今回の『エスケヱプ・スピヰド』はあえて言うならばレトロフューチャーですけど、でも描かれ方としては現代のテクノロジーをレトロフューチャー的に置き換えた具合。延長した昭和時代に、廃墟となったビル群の街。コンピューター制御の各種センサーに、アンドロイドのような役目を終えた機械兵。そして巨大ロボットさながらの最強兵器“鬼虫”などなど……。昭和であれば出てきそうでギリギリ出てこないであろうSFネタが満載であります。


 そのあたりはレトロフューチャーの中でもスチームパンクと似たようなものがありますね。スチームパンクだって蒸気技術を異常発展させた世界観ですけど、でもそれは当時書かれた古典SFだけではなく今の現代においてもフィクションとして新しいスチームパンク作品が登場してきますからね。


『エスケヱプ・スピヰド』もスチームパンク的なアイディアですけど、でもスチームしていないので、もっと広義的なレトロフューチャーということで。あとは大正ロマン的とも言える。とはいえ大正時代ではなく昭和なので、大正ロマンではないですけどね。ちなみに昭和101年は今の元号に直すと令和8年くらいになるかと思いますので、実はもうちょっとで作中の時代に追いつきますね(とはいえ昭和で分岐した架空世界ですけど)。








 お話の内容としてはSFの王道をおさえたヒロイックアクションですかね。兵器としての存在である主人公がヒロインや周囲の人物との交流を通じて人間らしさを取り戻していくというのは、SFでもアンドロイドものとかでよく描かれています。


 あとは兵器であることを活かしたスタイリッシュな戦闘シーンであったり、それこそクライマックスの巨大ロボット“鬼虫”同士の一騎打ちであったりする部分は、タイトルに負けないくらいのハイスピード感があって圧巻。


 話の本筋としても一貫したテーマ性があり、結末までテーマがぶれることなくちゃんと描かれているので、どういった話なのかがとてもわかりやすく読みやすいですね。


 レトロフューチャーとしての世界観のエモさもあると同時に、その世界で繰り広げられるアクションやドラマが秀逸で、まさに夢中で読めてしまえる良作でした。


 あと結末がロードムービー的であり、第一巻だけでも完結した話として成立しているのですが、シリーズものとしてもそういう風に続編を続けていくのかと、ちょっと関心しましたね。







 というかこれ……結構巻数もあるシリーズですし、普通にアニメ化とかしなかったのだろうか? いやだって電撃大賞で大賞を受賞した作品ですし。内容からしてアニメーション映えしそうな作品なのに。なんでしょう、澤野弘之BGMが抜群に似合いそうな作品。シリーズとしてはもうすでに完結していますけど、今からアニメ化しないですかね?








 という感じで、『エスケヱプ・スピヰド』についてでした。








☆関連記事☆


19年3月28日公開

【小説】『言鯨【イサナ】16号』を読みました。SFだと思ったらファンタジーだったけどやっぱりSFだった。な…何を言っているのか(ry

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886711486/episodes/1177354054889028007






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る