【小説】『ラストオーダー1 ひとりぼっちの百年戦争』を読みました。このレーベルでは珍しい(?)良作のエンタメSF

2022年2月8日






 年末年始に電子書籍サイト「BOOK☆WALKER」にて、『想像力の極致! 2021年SF総決算』というキャンペーンが開催されていました。


 紹介されている作品の中には読んだことのあるものもあり、また読んだことはなくともタイトルは知っているものや表紙を見たことがあるものなど、いちSFファンとして馴染み深いキャンペーンになっていました。


 またこういったキャンペーンはご新規さんにとってSF入門ともなり得る貴重な企画でもありますし、もうすでにSFファンである方でも新たに作品を発掘できる作品探しガイドとしてもありがたいものですので、キャンペーンはすでに終了していますが一応URLを貼っておきます。



『想像力の極致! 2021年SF総決算』

https://bookwalker.jp/select/1258/



 と、その中でもライトノベルのカテゴリーの中に見慣れない作品がありまして、せっかくのキャンペーンですので、この機会に読んでみることにしました。タイトルは『ラストオーダー1 ひとりぼっちの百年戦争』です。








  書籍情報



  著者:浜松 春日


 『ラストオーダー1 ひとりぼっちの百年戦争』


  講談社 講談社ラノベ文庫より出版


  2020/4/1



  あらすじ(Amazonより転載)

 終末後の世界。機械兵士リアは、最後の命令―ラストオーダーに従い、終わることのない戦争を百年以上も続けていた。そんなリアの前に、終末後も生き残っていた人々が暮らす住処を追われた兄妹、ノーリィとミクリが現れる。規則上子どもを見捨てられないリアは、二人を保護することに。機械人形を警戒する兄妹だったが、身を挺してでも二人を守ろうとするリアに次第に心を開いていく。意を決して、もう戦争は終わっていて戦う必要がないことを告げるが、命令に従うリアは戦いをやめることを拒み―!NOVEL DAYSにて開催されたリデビュー小説賞受賞作が登場!









 レーベルは講談社ラノベ文庫ですけど、感覚的に講談社ラノベ文庫からSF作品が出ること自体すごく珍しいことではないかと勝手に思いました。ライトノベルでSFといえば電撃文庫とガガガ文庫の二強だと認識していたのですが、それ以外のレーベルでもこうしてSF作品が出てくることにちょっとした驚きがありました。まあ、講談社ラノベ文庫はあまり読まないので、もしかしたらレーベルカラーに偏見があったのかもしれません。



 この『ラストオーダー1 ひとりぼっちの百年戦争』という作品は、一言にポストアポカリプスもの。戦争によって人類の文明が滅んだ後の世界を描くお話になります。そしてあらすじにもある百年間稼働している軍用アンドロイドと兄妹との絡みが、メインのシナリオになる部分かと。


 この百年間稼働し続けている軍用アンドロイドの設定、巻末のあとがきにおいて作者さんが幼い頃に見た人形劇を元ネタにしていると書かれていましたが、個人的には残留日本兵のことを連想しましたね。作中にて作戦終了のコマンドが来ないために、人類滅亡で戦争そのものがなくなったのにも関わらず舞台となっている人工島の拠点防衛を続けているアンドロイドのお話は、どこか太平洋戦争後に実際にあった旧日本兵の話と重なるものがあるように思えました。


 まあSF的な観点から言えば、ロボットは人間と違って百年間も戦い続けることは難しいかと思います。現代の自動車でさえ五年十年も経てば充分型落ちですし、数十年もののビンテージカーでも手間をかけてメンテナンスし続けてようやく走れる程度のものですからね。当然自動車よりも緻密に作られているだろう人型ロボットが人間の寿命を超えて稼働し続けることは容易なことではないはず。


 とはいえこの作品では主人公であるアンドロイドは自己修復キットのようなものを所持していますし、もう起動していない機械の部品を拝借してニコイチにするなど、そのあたりのロボット設定に対するフォローがされているので、SFとして細かいところまでよく作り込まれているといった印象ですね。ポストアポカリプスとしての廃墟描写もエモさがあってとてもいいと思います。






 さてそんなポストアポカリプスな作品ですが、その、あらすじにあるような軍用アンドロイドと人類の生き残りの兄妹が絡むお話は、物語の中盤からなんですよね。


 前半部分は、アンドロイド側と兄妹側とで視点が交互に入れ替わって現状を描写したり過去回想したりと、作品の半分くらいは前置きに費やされているといったところ。このあたりはまだ物語の全体像が想像しにくい構成になっているため、おそらくSFとかに興味のない方だと前置きが長すぎて興味が薄れてしまうかもしれません。まあSF好きの自分としても、確かに前置き長いと思いつつも、でもポストアポカリプスの世界観だけで充分楽しめてしまえましたけどね。


 まあそんな物語の半分を使った前置きからの、中盤でようやくアンドロイドと兄妹が出会うシーンとなり、後半パートで実際に異なる存在同士の交流が生まれるお話になります。


 とくに後半のクライマックスのシーンでは怒涛のアクションもあったりして、なんでしょう、さながらゲームの『バイオハザード』みたいな要素も感じられて、エンタメSFとしての読み応えがグッと跳ね上がるといった感想ですね(実際内容としては『バイオハザード』全然関係ないですけど、一応生物兵器が登場するところだけ類似してるかも)。






 そんなこんなで、講談社ラノベ文庫では珍しい(?)SFラノベですが、想像以上に読み応えがあって楽しめましたね。続巻も出ているそうなので、今後の展開も期待できるかもしれません(自分としては、一巻の結末は個人的に好みではない。確かにシリーズものとしてのフラグとしてのオチでもあるし、物語的にも妥当な結末ではあるのですが、「主人公そういう選択をするのか……」と気持ち的な部分で違った感じがありました。でもいいエンディングではありますね)。





 そんなわけで、講談社ラノベ文庫のSF作品『ラストオーダー1 ひとりぼっちの百年戦争』の感想でした。








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